さて、いよいよ大団円を迎えます用心棒シリーズ最終巻をレビューします。この 作品は、いままでの三作のような青江又八郎の用心棒仕事の短編は含まれませ
ん。短編集ではなく長編小説となっています。
舞台は又八郎の用心棒時代を過ぎて早16年。又八郎は中年にさしかかり、すっか
り腹も出て体もなまりかかっています。その又八郎の元に寺社奉行榊原からの呼
び出しがあります。用件は、又八郎の江戸出府に伴い、ある用事を果たす事でし
た。その用事とは、なんと藩の忍者組織、嗅足組の解散でした。榊原は嗅足組の
差配をしていたのです。
榊原は、又八郎のこれまでの由来から、江戸嗅足組の解散を説得に行け、と依頼
します。ところが、又八郎が江戸に到着すると、やにわに地元に帰った江戸嗅足
組の女三人が暗殺されます。しかも地元からは、嗅足組の別の組が上京し、暗躍
を始めます。どうも藩には恐ろしい秘密が眠っている模様です。
それを巡って幕府の隠密、本国の嗅足組を向こうに回して江戸嗅足組の棟梁、佐
知と共に又八郎は探ります。いくつもの謎を解き明かし、ついに秘密の根幹に迫
るのですが、それを隠蔽しようとする恐るべき敵が、必殺の罠を伴って又八郎と
佐知を倒そうと立ちはだかります。
物語の終盤又八郎は、盟友細谷の用心棒仕事を手伝いながら述懐します。「細谷
を助けぬというわけではないが、わしも主持ち。。。」と考えたあとで、又八郎
の頭には、ふと飼われている、という言葉が浮かびます。彼の頭には、むかし細
谷源太夫と過ごした野放図な浪人暮らしの月日が懐かしく甦って来ます。危険を
紙一重でやり過ごすような日々でしたが、彼は一剣を恃んで恐れを知りませんで
した。
そんな日々にもおもしろいことはずいぶんあり、なによりも身も心も自由でし
た。あの頃に比べれば、今の自分は心身ともに小さくかがんで生きているとは言
えぬか。細谷がこの歳になって、なおも用心棒というしがない仕事にしがみつい
ているのを憐れみ笑うべきではないと。
いい話ですね。又八郎は大変な苦労をしてきたのですが、なおもその日々を肯定
し懐かしむ境地に至ったのでしょう。藤沢先生のこういう所が私は大好きです。
物語の終わりかたも、大変よくできていました。おすすめです。