集大成作品であるとか。これまでは電子書籍であっても単行本値段でしたし、 第一部だけ試し読みしたところでは、まじめなファンタジーでありましたの で、二の足を踏んでいたのですが、キャンペーン価格で安くなったのもあり 森見熱が上がっていたこともあり、思わず購入して見ました。 大変美しいファンタジー小説でありました。 小説は、尾道、奥飛騨、津軽、天竜峡、鞍馬、の五部に分かれています。 小説の底には、岸田道生という既に亡くなった画家が残した「夜行」という 四十八作の銅版画があります。永遠に続く夜を思わせるそれぞれの作品には いずれにもひとりの女性が描かれています。目も口もなく、滑らかな白いマ ネキンのような顔を傾けている女性たち。夜行の意味を問われると、画商は 言います。「夜行列車の夜行か、あるいは百鬼夜行の夜行なのかもしれませ ん。」 小説の始まりは、学生時代に通っていた英会話スクールの仲間たちと、鞍馬 の火祭を見に行こう、という話がまとまるところからです。当時の仲間とは 、中井さん、大橋君、武田君、田辺さん、藤村さんの五人です。実は仲間は もう一人いたのですが、彼女長谷川さんは、同じように10年前出掛けた鞍馬 の火祭の際に失踪したまま今日に至ります。物語は、宿で猪鍋を囲んで5人が 四方山話をし始めて始まります。では第一部尾道です。 主役は中井さんです。既に結婚している彼は、ある時、変身した妻を探しに 尾道まで行ったことがある、と語ります。妻は突然尾道に出奔してしまい、 暫く滞在する、と電話してきます。何故尾道か、という問いには一切答えず それでも会話を続けるうちに妻は、中井さんに尾道に来るよう勧めます。 今働いている雑貨屋の場所を聞き、中井さんは、尾道に向かうのですが、実 は中井さんにとって尾道は初めてではありませんでした。もともと失踪した 長谷川さんが尾道に住んでおり、夏休みの際に尾道で彼女と会ったことがあ ったのです。尾道に着いた彼の目に、「夜行-尾道」が現れます。着いて見 るとなんと尾道の妻は。。。。 第二部は奥飛騨です。武田君の話です。勤め先の増田さんに頼まれて、武田 君は、増田さんの彼女の美弥さん、妹の瑠璃さんとドライブ旅行に出かけま す。子供のような増田さんカップルは何かといえば激しい喧嘩になるので、 武田君に仲裁してもらいたいと思い、旅行に誘ったのです。やはり途中から 険悪になるカップルでありました。その上、途中で車の故障で困っていた一 人のおばさんを同乗させるのですが、そのおばさんが人相を見る、というの です。しかも彼らのうち二人に死相が出ているから東京に引き返せ、と言い ます。そのまま旅を続ける四人でありましたが、不安いっぱいの旅の後に。 。。。 第三部は津軽です。夜行列車に乗りに行く、という企画を立てた藤村さんと 旦那さんでありました。旦那さんには鉄友の児島君がおり、今回の津軽旅行 にも同行します。旅行の途中に、三人は、燃える家を見ます。その前に児島 君は手を振る女性を見た、と言うのです。実はこの手を振る女性というのは 今までの三部すべてに登場しています。終点の津軽中里に着いた三人の見に 起こる不思議な事とは。。。この前年藤村さんが勤めていた銀座の画廊に児 島君が訪れてきたときに、「夜行-津軽」の話が出ます。その時、岸田の残 した作品の中に、「曙光」がある、という話が出ます。誰も見たことが無い その作品が、この小説の大事なモチーフになって来ます。 第四部、天竜峡です。田辺さんは伊那の叔母夫婦を訪ねる旅に出ます。途中 の列車で一緒になった女子高校生と坊さんは、どこまでも一緒に旅をしなが ら、当てものをする、という坊さんに自分の行き先を当てさせる、という遊 びをしています。ところで、田辺さんは、画家、岸田の家にかつて入り浸っ ていたことがありました。岸田サロンと呼ばれるその家にはさまざまな人達 が出入りし、夜中食べたり飲んだり話をしており、明け方になると画家を残 して帰宅し、画家は仕事を始める、というのが習わしになっていました。実 は坊さんは佐伯という名でそのサロンにも出入りしていたというのです。 再び出てくる「曙光」の名前。実は夜通し旅をしている女子高校生の正体は 。。。。 第五部、鞍馬です。話は元に戻ります。猪鍋を食べ終え、5人は火祭を見に 出かけます。着いた頃には祭は終わっており、混んだ電車を嫌う5人は歩い て貴船口を目指します。ここからは驚きの展開です。5人がそれぞれ見た 「夜行」の話をしながら夜の道を行く途中で、5人は「曙光」の話を始めま す。ふと気が付くと、大橋君の周りにはだれもおらず、電話にも出ません。 驚いた大橋君の電話がついに中井さんにつながり、大橋君は驚きの事実を 耳にします。 いや、おちゃらけでない森見先生の小説もなかなか良いですね。ファンタジ ーらしい起承転結を持つ、大変美しい小説でした。おすすめです。
by rodolfo1
| 2017-07-07 02:25
| 小説
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