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ボストン・テラン作「その犬の歩むところ」を読みました。

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ボストン・テラン作「その犬の歩むところ」を読みました。犬好きの方にはたま
らん小説だと思います。
作者、ボストン・テランさんは覆面作家だそうです。まったく素性は不明です
が、この本を含めて六冊の小説が翻訳されており、神は銃弾という小説で、こ
のミス大賞を受賞しています。聖書の有名な一節、「この人を見よ」から取ら
れたのであろう、「この犬をご覧」というセリフで各章は始まります。
小説の書き手は、イラク戦争で負傷した帰還兵です。彼がどこからか逃げ出し
て来た傷だらけの犬を助け、その犬の来歴を知り、それを小説に仕立てる、
いう体裁で物語は進行して行きます。当然その帰還兵も小説に登場します。

小説の始まりは、とある野良犬が、田舎のモーテルにたどりつくところから始
ります。宿の女主人アンナは、ブダペストから難民としてアメリカに移住し
いますが、ハンガリー動乱によって死にかけます。死の危機をとある犬とと
もに乗り越えた彼女は、犬に対して特別な想いを持っており、多くの野良犬を
モーテルで保護しています。この日保護された犬は変わった首輪をしており、
その首輪に書かれていた犬の名前はギヴ、というものでした。ギヴはアンナの
別の飼い犬と子供を作り、すぐに息絶えるのですが、一匹だけ生まれた雄犬に
ギヴ、という名前が与えられます。

ギヴとアンナの平穏な生活は、とある若いロッカー兄弟達によって破られます。
兄弟は父親に虐待されていましたが、モリソンという飼い犬に助けられ、犬に
対して特別な感情を抱いています。兄はギヴを欲しがった弟のためにギヴを盗
み、立ち去ってしまいます。兄は、生活のためにしばしば盗みを繰り返してい
たのです。

兄弟とギヴはしばらく平穏に旅を続けますが、ダラスでタトゥー・アーティス
トをしているルーシーと知り合います。弟と恋仲になったルーシーは兄弟をニ
ューオーリンズに誘います。そこには彼女の保護者ともいうべきミズ・エルが
住んでおり、ルーシーの部屋が用意されているのです。一足先にギヴを連れて
ルーシーはニューオーリンズに向かいますが、良い仕事をオファーされた弟に
兄は嫉妬し、結果弟は途中で車から一人で降り、その後行方不明になってしま
います。

一緒に暮らしだしたギヴとルーシーでありましたが、家をハリケーン・カトリ
ーナが襲います。行方不明になった猫を助けるために救助を断り家に残ったル
ーシー達を洪水が襲い、結果ルーシーは亡くなり、ギヴも行方不明になってし
まいます。

その二年後、一人の海兵隊員、ディーン・ヒコックが帰国して来ます。彼はイ
ラク戦争で負傷し、除隊して来たのです。9・11事件で姉を失い、戦争で心に
傷を負った彼は、死に場所を探してアメリカ中を旅しています。その彼の車の
前に飛び出してきたのがギヴでした。檻に閉じ込められ、飢え死にしかかって
いたのを逃げ出して来たのです。ディーンは、ギヴの身体に埋め込まれたマイ
クロチップの情報からルーシーにギヴを返しに行こうと思い立ちます。ニュー
オーリンズに着いたディーンは、そこでルーシーの死を知らされ、そこで会っ
たルーシーの友人に、ギヴの来歴を聞くのです。この時収監されていたロッカ
の兄にも会いに行ったディーンは、ギヴの物語を書くことを決意します。

ディーンはギヴを連れてカリフォルニアのバレット・ジャンクションに向かい
ます。そこにはかつて戦場で亡くなった戦友の父親が住んでいて、息子の事は
どんなことでも聞きたがっていたのです。そこで父親は、ディーンを戦友の名
付け親に紹介します。彼らは復員兵専用のトレーラーパークに住んでおり、デ
ィーンは彼らに温かく迎え入れられます。ここらの模写はいかにも古き良きア
メリカなのですが、そこは現代、復員兵たちはみな心に傷を抱えています。名
付け親の一人がディーンにこう言います。「軍曹、おれたちはみんなあの場所
に行った者たちだ。いつまでもしがみついてるな。おまえさんには犬がいるだ
ろうが。夢もあるんじゃないのか?生きることで死んだものを崇めるんだ。」

良いセリフですね。この後、戦友の脳性マヒの弟が山火事に巻き込まれ、彼に
ついて驚きの働きをギヴがします。ところがギヴは川に流され、行方不明にな
りました。それをTVで見たアンナがギヴであることに気づき、カリフォルニア
にやってきます。そして驚きの結末が。。。。。

いや。良い話でした。犬好きの人にはたまらん話だと思います。作者、ボスト
ン・テランによれば、神がかつて世界に人の住む場所とその他の生物の住む場
所を分けた際に、犬だけが神の意志にそむいてその境界を超え、人の世界に来
たのだとか。犬と人間の関係をたっぷりと描いた名作だったと思いました。


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by rodolfo1 | 2017-09-03 02:33 | 小説 | Comments(0)
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