中山七里作「恩讐の鎮魂曲」を読みました。いやいや、これは掘り出し物の作家 さんです。多少の綾はあるものの、どの作品も大変面白い。弁護士、御子神礼司
作シリーズの第三弾です。
前回二作で、敏腕弁護士でありながらかつては死体配達人と呼ばれていた猟奇殺
人犯である出自が暴かれた御子柴ですが、この度は、彼を更生させた少年院の元
教官、稲見が殺人を犯したという事件を側聞し、弁護に名乗り出ます。ところで
稲見本人は全く弁護の必要を感じていません。自らの罪を自白し、裁きを受けた
いと望むのみなのです。しかし御子柴は奮戦します。彼はかつての死体配達人と
しての本性が露見し、反社会勢力以外の依頼人が全く居なくなっている状況で
す。事務所もかつての虎ノ門から小菅に都落ちしています。
稲見が入所している老人介護施設で、ヘルパー栃野が殺されます。殺したのは稲
見であると万人が認めています。稲見自身もそれを認めています。しかし御子柴
は諦めません。老人ホームを調査し、栃野を始めとするヘルパーが、介護老人た
ちを虐待していた事実を探り出します。ところが、入所者たちは一様に口を噤ん
で真相を語ろうとしません。彼らはこの施設で問題を起こせば、次に入所する施
設が無かったわけです。
ところでその栃野ですが、かつて韓国旅行に赴いた際に乗っていたフェリーが沈
み、同乗していた日本人女性の救命胴衣を暴力で奪い取り、それを着けて自らは
助かった経緯をテレビで中継され、女性の家族から訴えられて裁判になったもの
の、緊急避難であったとの主張が認められ、無罪放免となった経緯の持ち主でし
た。その事実を法廷で暴き、介護者から介護老人への虐待の事実を更に暴いた御
子柴は、まさにその緊急避難の弁明を以て稲見の弁護を試みるのですが。。。。
中山先生の小説はどれも大変面白いのですが、どこか論理が破綻しています。
この小説も、その破綻を抱えており、ちょっと無理筋な論理で展開されているの
ですが、まあそこはミステリのご愛嬌。勘弁してやってください。しかしこれで
終わってしまうのはもったいないですね。なんとなく子供好きな御子柴先生の事
ですから、子供をネタにもう一作書かれるのはどうでしょうかね?そうした期待
感を持たせる小説ではありました。
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