青山文平作「つまをめとらば」を読みました。

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2016年度、直木賞受賞作です。ネタバレしますが、この作品は、ネタバレ
してもその真価は全く変わらないと思います。それほど良くできています。
大変よい小説だと思いました。藤沢周平先生が再度降臨されたかと
思わせる出来もある時代小説の短編集です。

冒頭、ひともうらやむ、は、ひともうらやむ男女が結婚したものの、結果的には
うまくいかず、離縁を巡って妻は夫に殺され、夫は自裁してしまいます。
その騒動に巻き込まれた主人公は、ぱっとしない田舎者の妻を連れて江戸に
出るのですが、意外や妻は大活躍。女の覚悟、というものがいかに凄いか、と
いうことがテーマだったと思います。

第二編、つゆかせぎ、は、俳諧が趣味の侍に嫁いできた嫁が、亡くなり、
その後実は人気の読み本作家であったのが判明する話です。
主人公の夫は、常々妻に、侍をやめて俳諧師になるべきだ、と言われていました。
妻はもともと茶屋の娘で、風俗関係には明るかったのです。妻が人気戯作作家
であったと初めて知った夫は動揺します。戯作に何が書いてあるか知るのが怖い
のです。そうした中、出張途上で、宿の主人に勧められて、素人の娼妓を買いま
す。彼女は、金もですが、種がほしい、というのです。子供を作りたい。子供は
自分の子供で、とてもかわいいというのです。その結末に到り、主人公は亡く
なった妻と向き合う気持ちに初めてなります。大変よろしかったです。

第三編、乳付、は、女性が主人公です。漢詩が得意な主人公は、漢詩つながりで
藩の高家に嫁に入ります。いまひとつ釈然としないまま嫁入った主人公は、子供
さずかりますが、乳が出ません。義母は、さっさと乳母を手配します。その
乳母が大変な美人だったので、主人公は悋気します。ところが、その乳母と話し
てみると、その乳母も、初産のときには乳が出ず、来て貰った乳母に悋気し、
それがもとで離縁に到ったと聞きます。

その頃、人づてに、高家の夫は、実は妻を大変尊敬していて、何かの折には大変
頼りにしている、ということを聞かされます。重苦しい始まりであった小説は、
シンデレラストーリーで終末するのです。

第四編、ひと夏、は、ものすごく良い出来です、藤沢先生が蘇ったかというよう
できあがりです、チャンバラのシーンも大変良く書けています。この作家さん
は、よくいるデモシカ時代小説作家さんとはぜんぜん違います。実力は本格派
でしょう。ほかの作品を読むのが楽しみです。

部屋住みでうだつのあがらなかった厄介叔父の主人公に、突然召し出しの話が訪
れます。ただ、任地は、二年勤めると、気がふれる、と噂の難しい任地です。
その任地に赴任した主人公は、やはり過酷な日常を送るのですが、ある事件をき
っかけに、地域に受け入れられるようになります。この短編集一番の出来ではな
いかと思いました。

第五編、逢対、は、貧乏御家人の話です。主人公は、貧乏御家人でありますが、
算学を独学で修めています。彼は、当時の測量に使う実学ではなく、純粋な
数学を極めることを理想としていて、それなりに生徒もついています。
近所の煮売り屋の女と出来て、彼女と暮らしていますが、彼女は身分違いを
主張して、算学の師匠として侍をやめて彼女と所帯を持つ、という提案をあっ
さり蹴ってしまいます。

主人公も、そう提案をしてみたものの、自分に侍を捨てるだけの覚悟は無い、
と自覚しています。そうした中、同じ貧乏御家人の友達が、就職活動に同道する
ことを勧めてきます。主人公は、ただただ就職活動を(それを逢対、と呼びます)
することが、公儀に対するご奉公なのだ、と定義づけています。

二人は、当時の切れ者と噂の高い若年寄のところに逢対に向かいます。そこで
驚きの事件が。。。。主人公は、その事件に触発されて、新たな人生を始めよ
うとします。潔さ、というものが現れた小説であると思いました。

第六編、つまをめとらば、の主人公は、隠居の武士です。その隠居宅に
元の朋輩が訪ねて来ます。女と暮らす家を探している、というのです。主人公
隠居宅に空いていた家作を借りた朋輩は、大量の算学の本とともにやってきて
特に女を連れてきたりもせず、主人公と仲良く暮らします。

あろうことか、男同士の暮らしは大変快適で、衆道の心地よさとはこういうもの
かとお互いに認め合ったりもしています。朋輩は、その女の品定めを主人公に頼
みます。品定めの結果は、なんということもない普通の女でした。そうした中、
かつて雇っていた下女が、味噌売りとなって主人公の元に現れます。かつて、主
人公を警戒させるだけの色気持った女は、30過ぎの大年増になっていて、味噌
を二人に売りつけて帰って行きます。二人とも、その下女に惹かれていたのです。

その元下女に会った後、朋輩は、やはり女と暮らす、と宣言して、主人公の元
を離れます。下女に会って、やは女に頼って暮らしたい、男と暮らす覚悟は
自分には無かった、というのですね。
自信と覚悟、思いのほかの自分の才能、といったものを扱った、大変良く出来
短編集でした。たった七作目で直木賞を取った、というのも納得です。
今後大いに書いていただきたいと思いました。

ただまあ、一言苦言を述べさせていただくならば、藤沢作品に出てくる女性は、
もっと可愛らしかったです。もっと生き生きしていました。秘剣シリーズに出て
来た、普段疎遠にしていた妻が、剣の腕的にはだいぶ落ちぶれて来た夫のところ
に、かつて藩命で討ち果たした男の弟が敵討ちと称して挑んで来る、という話
があったのですが、その妻が、たすき掛けで小刀を取って、果たし合いの場に
走り込んで来る、というような女性観は望むべくもありませんね。今後この点
をがんばっていただければと思いますが、もはや作者も60代とのことですので、
難しいでしょうね。ま、歴史小説ファンとしては、葉室先生と朝井先生には
もう期待できない状況ですので、なんとか青山先生にがんばってもらいたいと
思います。




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by rodolfo1 | 2016-02-28 02:49 | 小説 | Comments(0)
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