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角田光代作「坂の途中の家」を読みました。

角田光代作「坂の途中の家」を読みました。_d0019916_20114751.jpg
里沙子は、どこにでもよくいる、三歳児の娘を子育て中の専業主婦です。ちょう
どイヤイヤ期にさしかかった娘の子育てに悩みながらもそれなりに幸せに暮らし
ていました。その里沙子に突然裁判員裁判の裁判員補欠の役が回って来、里沙子
は公判に参加する事となりました。

被告は里沙子に極めて近しい人物です。おなじく一人娘を子育てしていた被告
は、子育てに悩み、家族や地域から孤立し、夫からは手荒い物言いを続けられ、
思い余って風呂に子供を落として溺死させてしまったのです。他の裁判員やマ
スコミは、セレブ志向の強かった被告がままならない生活に嫌気がさして、子
育てを放棄した挙句子殺しに至ったという見方をしています。

しかし、おなじく子育てに悩む里沙子一人は自らと夫や夫両親、自らの両親と
のぎくしゃくした関係から、ほんとうに被告は夫たちに、虐待されていたので
はないかと考えます。一見普通に見える里沙子自身の夫の口癖は、何か問題が
生じる毎に「君がおかしいんじゃないか?」と言うものの、どうおかしいから
どう改めろとは決して言いません。相談しているように見えて全て夫と夫両親
で、里沙子夫婦の生活を決めてしまいます。

公判が進み、被告側の事情が明らかになるにつれ、里沙子は被告とじぶんを重
ねてしまいます。「夫は単に私に劣等感を植え付けただけだと、里沙子は他人
事のように理解する。裁判員たちは、相手を痛めつけるためだけに、平気で、
理由も意味もないことのできる人間がいると、わかるはずもはない」しかし里
沙子は、その意見を強くは主張できません。

言ってはみたものの、所詮は補欠裁判員の身。荒唐無稽な意見を主張すること
をせず、量刑の評決を欠席しようとするのですが、最後に里沙子は、量刑の場
に戻り、被告への同情を表明するのです。さいごの判決文が泣かせます。一見
普通に見える人間の持つ悪意を鋭く描いた力作でした。


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by rodolfo1 | 2016-06-01 02:13 | 小説 | Comments(0)
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