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吉田修一作「犯罪小説集」を読みました。

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吉田修一作「犯罪小説集」を読みました。芥川賞受賞作家、吉田先生は、芥川賞作家にしては珍しくコンスタントに面白い小説を書く小説家さんです。作品は大変人気があり、何度も映画化されています。

この小説はその名の通り、犯罪小説集そのものです。五編の短編から成り、いくつかの犯罪は、大変有名な事件から題材を取ったものもあると思いますし、あるいはすべての作品がそうなのかもしれません。

第一作、青田Y字路(あおたのわいじろ)は少女失踪事件を扱っています。とある少女が突然行方不明になります。家族は嘆き、戸惑い、少女を探そうとしますが、一向に行方が知れません。犯人と思しき人物は浮かぶのですが、断定もされず少女も見つかりません。

その犯人らしき人物は、母の行商を時折手伝うのみで引きこもりの生活を送っています。そうした中、再び少女失踪事件が起こり、彼は犯人として追われます。切ない終末ではありましたが、吉田先生は、最後に彼に微妙な疑惑を残し、小説の結末を意味深にさせています。

第二作、曼珠姫午睡(まんじゅひめのごすい)の冒頭は、咲き乱れる曼珠沙華の描写から始まります。次のシーンは、中学三年生の時の体育のシーン。主人公英理子はスクールカースト最上位の生徒でした。その英理子が軟式テニスで、カースト最下部のゆう子と打ち合いになり、なぜかとろそうなゆう子が英理子と互角の打ち合いになります。

そうしたゆう子に不気味とも言える違和感を持った英理子でしたが、次にゆう子の名前に出会うのは英理子が幸せな専業主婦として家族の世話をしていた時、テレビのニュースでゆう子がスナック勤めで知り合った客を殺害した、と報じられた時でした。

なぜかゆう子の人生に寄り添って行く英理子でしたが、性サービスを兼ねるエステ店に出入りするようになり、そのままゆう子の人生をなぞるのかと思われたのですが。。。。結末はなかなか危うくも爽快なものでした。

第三作、百家楽餓鬼(ばからがき)これはかの有名な大王製紙のどら息子に案を取った作品です。良家に生まれて聡明に育ったはずの長男が、実家の会社に入り、仕事では順調に業績を挙げながらも、バカラ賭博に引き込まれて行く有様を、吉田先生独特の粘り強い筆致で描写して見せます。本作屈指の名作だと思いました。

第四作、万屋善次郎(よろずやぜんじろう)これも有名な事件ですね。限界集落に戻って父親の介護をし終わった善次郎が、生業であった養蜂を巡って、地元の長老と争いになり、地域によって村八分にされた善次郎が次第に狂っていく有様を、これも丁寧に描写しています。この切ない物語が、善次郎たちの飼い犬をモチーフとして物語られる珠玉の小説です。

第五作、白球白蛇伝は、かつてスターであった一人の野球選手が転落していく物語です。話自体はよくある話ですが、これに白蛇伝説が散りばめられ、堕ちて
いく主人公を、白蛇に自らをなぞらえた運送会社社長がなんとかして庇おうとするのですが。。。。

犯罪、というものは憎むべきものですが、いくつかの犯罪には、憐れまれる事情が隠れていることもあるのです。この小説はそうした事情を詳らかに語った中々に読み応えのある良作であったと思いました。




by rodolfo1 | 2016-12-05 02:17 | 小説 | Comments(0)
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