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ドン・ウィンズロウ作「犬の力」を読みました。

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ドン・ウィンズロウ作「犬の力」を読みました。30年にも及ぶ苛烈な麻薬戦争の
姿を描いた力作です。表題、犬の力、とは聖書にある言葉です。いたぶる悪の力
を表しています。

小説の冒頭、DEAの麻薬捜査官アート・ケラーは、ひとつの村の住人すべてが惨
殺されている現場に居ます。この村の一人が、麻薬組織を裏切ったと思われたた
めに起こった事件でした。物語の大要は、このエピソードから語られています。

たまたまアートは、アダンとラウルのバレーラ兄弟と知り合いになります。アダ
ン達はアートを叔父のミゲルに紹介します。彼はシナロア州の警官でもあります
が、実は麻薬組織に属しており、影の大物としてシナロアに大きい影響力を持っ
ています。ミゲルとアートは協力して、麻薬組織を撲滅するべく、コンドル作戦
を実施します。

ところが、組織のボスを突き止めて殺し、既存の麻薬組織を壊滅に追い込んだの
は、ミゲルがその後を襲い、新たな組織を立ち上げるためだったのです。こうし
て出来た組織は、コロンビアの麻薬をアメリカに安全に送り込むための組織だっ
たのです。ミゲルは、現地の大物たちを組織に参加させ、自らは影の黒幕として
グアダラハラに引っ込み、一見現地の大物実業家を装って暮らしています。

ところで、ニューヨークのヘルズキッチンでは、とあるアイルランド人の若者カ
ランが台頭して来ます。ヘルズキッチンを支配していたボスを殺し、マフィアと
交渉して、縄張りを奪います。マフィア達はポリシーとして麻薬には手を出さな
かったのですが、それが気に入らない手下は、カラン達を巻き込んで、ミゲルか
ら麻薬を手に入れ、ニューヨーク中にばらまきます。

その頃、カリフォルニアのラホーヤでは、ノーラという娘が、その美貌を買われ
て、高級売春婦になるべく磨きをかけられています。カランとノーラは微妙な出
会い方をします。

一方アートはメキシコで何とかミゲルの尻尾をつかもうとしています。DEAの見
解としては、コンドル作戦の後、メキシコの麻薬問題は解決済みなのですが、ア
ートは認めません。盟約団という名前の組織のボス、M-1と言われる男がミゲル
であることを突き止め、ミゲルの家に盗聴器を仕掛けます。しかも盗聴した取引
の内容をDEA以外の組織にばらすことで大量の麻薬を摘発し、ミゲルは怒り狂い
ます。

アートは、盗聴した情報から、麻薬を満載し、メキシコのレーダー網を潜り抜け
る組織の飛行機を偽電波で操り、別の場所に着陸させ、摘発します。その結果、
アートはケルベロスという名前の謀略の存在を知ります。ところが、この作戦中
アートの同僚が盟約団に拉致されます。現地の有名司教、パラーダは、彼の解放
を求めますが、彼は拷問され、殺されてしまいます。

折柄、メキシコ地震が起き、たまたま当地にいたノーラは、パラーダ司教と共に
被災者の救済を始め、パラーダと懇意になります。

その頃、ミゲルの衰えに満足できないアダン兄弟たちは、新しい組織を立ち上げ
ようとしています。その組織は、従来の麻薬運搬から、巧妙なマネーロンダリン
グに進化し、彼らの所有する店で闇資金を洗浄し、顧客を獲得して行きます。

カランは、恋人の求めに応じて、足を洗い、大工になるつもりで修行していま
す。しかし、マフィアは彼を手放さず、腕利きの殺し屋である彼に命じて、ボ
ス達を撃ち殺させます。マフィアは新しいボスを頂き、麻薬取引をおおっぴら
に始めるのです。

さて、復讐に燃えるアートは、ケルベロスの秘密を解き明かし、次々と捜査官
殺しに関わった人物を洗い出します。そして最後にミゲルを逮捕して監獄にぶ
ちこみます。更にアートは、殺しに関わった人物たちを同士討ちさせようと謀
ります。アダンの仲間、黄色毛メンデスが内通者だとアダンに吹き込むのです。
その中で、ノーラとアダンは結びついてしまいます。後編に続きます。
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アダンに裏切り者とみなされた黄色毛メンデスとアダンの間にはすさまじい闘争
が繰り広げられています。その頃カランは、もとマフィアの手先兼CIAのエージ
ェントでもあるスカーチによって、コロンビアに送り込まれます。コロンビアで
は、麻薬戦争を表向きにした、赤い霧作戦がCIAによって展開されています。コ
ロンビアにはびこる左翼ゲリラを討伐するのが真の目的でした。赤い霧によって
枯れ葉剤が麻薬畑にまかれ、周囲の農民の普通の畑もみな枯れ果て、住民には健
康被害が生じています。赤い霧によってコロンビアの右翼ゲリラはアメリカ兵の
訓練を受け、左翼ゲリラを殺しています。カランはこの作戦の人材として派遣さ
れたのです。

スカーチは、協力関係にあったアダンの警護のため、カランを派遣します。アダ
ン達は黄色毛の手の者に襲われ、カランの活躍によって九死に一生を得ます。

ところで、司教であったパラーダは、枢機卿に昇進しています。そのパラーダの
元に、古い付き合いのメキシコ教育大臣がやって来ます。末期癌に侵された彼は
救いを求め、メキシコ国家首脳の犯した汚職を示す書類をパラーダに託し、懺悔
を求めます。パラーダはその書類を直に教皇に渡そうとするのですが、それを察
した教皇周辺の秘密組織、神の御業によって殺害されてしまいます。その場所に
たまたま居合わせたカランはパラーダの死に衝撃を受けます。衝撃を受けた者が
もう一人いました。パラーダの福祉活動に参加推進していたノーラです。ノーラ
はパラーダを愛しますが、パラーダは受け入れませんでした。

それを利用したのがアートでした。パラーダ暗殺にアダンが一枚噛んだ事を立証
し、ノーラをスパイに仕立て、アダンの情報を漏洩させます。麻薬の仕入れに苦
悩するアダンは、コロンビアの左翼ゲリラと話をつけ、麻薬と銃器を交換する事
に同意し、その銃器を仕入れに中国に渡ります。その情報を手に入れたアートは
最後の勝負に挑みます。銃器密輸で政府を動かし、アダンを逮捕しようとするの
です。アートは銃器を押収しますが、アダンには逃げられます。

ノーラを愛するアダンは、ノーラが密告者であるとは全く思っていません。アー
トとアダン、スカーチは互いに牽制し合い、ノーラの安全を願うアートは必死に
ノーラの後を追います。そこにカランが絡み、最後に誰が勝ち残るか全く不明な
まま、物語は怒涛の結末へと驀進して行きます。

素晴らしいミステリではありましたが、我々日本人にとって麻薬戦争は他山の石
です。いまいち感情移入が難しい小説でしたが、それでもこの小説が力作である
のは良くわかりました。まさに現代の問題点を鋭く抉る話題の作品であると思い
ました。



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by rodolfo1 | 2017-12-11 06:26 | Comments(0)
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