この書評は完全にネタバレしますので、この小説を読んでみようと思う方は半分くらいでお止めください。なんでも訳者の方は、田中 西二郎先生の訳がよろしいそうです。 小説の冒頭は、この小説の主な語り手、イシュマエルの言葉から始まります。「財布はからっぽだし、陸の仕事には飽き飽きした。ここらで船に乗って水の世界を見てみよう。」彼は港町に赴き、銛打ちの蛮族、クィークェグと親友になります。2人で道行をしながらナンタケットにたどりつき、ピークォド号という捕鯨船に乗り込む事になります。 ピークォドの船長エイハブは片足です。彼はかつてモービーディックと呼ばれる白い鯨と戦い、その際に片足を失いました。それ以後彼は復讐に燃え、白鯨を追い求めています。 出帆して間もなく、彼らは最初の鯨を見つけます。捕鯨に際してエイハブのクルーがイシュマエル達の前に初めて姿を現します。銛打ちのフェダラーを初めとする彼らは見たこともない黄色い肌の蛮族でした。 航海は進みます。船の一等航海士は沈着冷静なスターバックです。彼はしばしば白鯨狩りに批判的で、エイハブに対して穏やかに帰国を進言します。二等航海士のスタッブ、三等航海士のフラスク達と共にさまざまなエピソードを繰り広げます。 ある時、クィークェグは熱病に侵されます。死に瀕した彼の為に大工は棺桶を作りますが、彼は奇跡的に回復します。余った棺桶は、救命ブイとして再利用されるのです。 またある時、フェダラーはエイハブに4つの予言をします。 Of the hearses? Have I not said, old man, that neither hearse nor coffin can But I said, old man, that ere thou couldst die on this voyage, two hearses must be seen by thee on the sea; the first not made by mortal hands; and the visible wood of the last one must be grown in America. Though it come to the last, I shall still go before Hemp only can kill (1)人間によって造られたのではない棺を見てから死ぬ (2)アメリカの木で造られた棺を見てから死ぬ (3)自分が先に死んで水先案内人として姿を現す (4)麻糸だけが船長を殺せる 恐るべき英語でしょう?私の英会話学校のインストラクターであるアメリカ人は、この小説を読みかけて、あまりに古くさい言葉ばかり出てくるので読むのを諦めたと言いました。私はこの小説が大好きで、何度も日本語訳で読みました。そういうわけでこの小説は、ほとんど記憶しているつもりだったのですが、この小説の4/5は、捕鯨と捕鯨船のシステムとか、鯨の生態や形状の描写に費やされていて、英語で読むのはものすごく読みづらかったです。読み終わるのにほぼ三か月かかりました。この小説を英語で読もうとするなら、最後の白鯨を追跡するChase1,2,3 三章だけ読めばあとは日本語訳で済ませてかまわないと思いました。 さて、物語は終盤にさしかかります。ある時、エイハブは、レイチェル号という捕鯨船に出会います。白鯨を見たか、というエイハブの問いに船長は見た、と答えます。しかし、その追跡の最中に息子を海で見失ったので、捜索に手を貸してくれ、と船長は懇願します。エイハブをその願いを断り、白鯨を追跡にかかります。 最後の追跡にかかる前にエイハブは一度だけスターバックに述懐します。自分は18歳の時に初めて鯨を屠ってから40年この生活を続けている、家族もナンタケットに放りっぱなしだ。こんな追跡をやめて家にかえれば幸せだろうにと。スターバックは最後に帰路する事を提案しますが、やはりエイハブは聞き入れませんでした。 さて、最後の三日間に話は移ります。ついにエイハブは白鯨を捉えます。勇躍ボートを出して追跡にかかったエイハブでしたが、なんと鯨は顎を開けてボートに襲いかかって来ます。ここは英語で読むに限ります。それはとても恐ろしい描写でした。二日間に渡って襲撃を退けられたエイハブは、最後にスターバックと握手し、三日目の襲撃に向かいます。鯨はなんとピークォド号に襲いかかり、船は沈められてしまいます。その最後のシーンを英語で述べます。 The harpoon was darted; the stricken whale flew forward with igniting velocity the line ran through the grooves- ran foul. Ahab stooped to clear it; he did clear it; but the flying turn caught him round the neck and voicelessly as Turkish mutes bowstring their victim. He was shot out of the boat, ere the crew knew he was gone. 最後にすべての乗組員が死んだ後、イシュマエル一人が例の棺桶のブイにつかまって難を逃れます。彼はあの息子の救助の為、海を捜索していたレイチェル号に助けられたのでありました。 この小説は捕鯨船エセックス号がマッコウクジラによって沈没させられたという史実に基づいて描かれています。ピークォド号の30人のさまざまな土地からの乗組員とはアメリカ合衆国を暗喩しているとか、イシュマエルという名前は旧約聖書のアブラハムの長男の名前であり避難民とか孤児を暗喩しているとか、いろんな読み方がされています。この小説はアマゾンキンドルで無料で読めますので、最後の三章 Chase1, Chase2, Chase3だけは原文で読まれることをおすすめします。 私のブログをご覧になっている方々は最近書評が無いなと思っておられたかもしれません。それはこの小説のせいです。しつこく言いますが、丸三か月かかって読みました。しかも連れのキンドルを見ましたら、どちらも同じ白鯨なのに連れのは原文への現代英語訳がついておりました。なんでそういう違いが出るのか。。。それならもっと楽だったのに。。。いかにこの小説を読むのが現代の英語圏の方々にも困難なのかという証左のような話でありました。 メリークリスマス、皆さんの元にも楽しいクリスマスが訪れますように。
by rodolfo1
| 2018-12-25 02:40
| 小説
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