最近のお気に入りである辻村先生の直木賞受賞作「鍵のない夢を見る」を読みました。
第一章、仁志野町の泥棒。ミチルは久しぶりに小学校の同級生律子を見ます。彼女はミチルと母親が乗った観光バスのバスガイドをしていました。律子がミチルの小学校に転入して来たのは、小学校三年の夏休み明けでした。活発な律子はすぐにクラスに馴染み、クラスの憧れ優美子と親友になります。 しばらく律子の母親は留守にしていました。律子の家には赤ちゃんが来たのですが、律子も律子の母親も、親戚の子だとミチルに言いました。友達はみなそういう説明を受けましたが、母親たちには律子の弟だと言いました。律子に尋ねると、恥ずかしいから黙っていたと言いました。みな生理を迎える年頃だったのでした。すると律子の母親にある噂が広まり。。。 第二章、石蕗南地区の放火。笙子の実家の前の消防団詰所が火事を出します。不審火です。笙子は今の勤め先に16年勤めています。もう36歳でした。共済金の払い出しが仕事です。そのため、火事の現場に写真を撮りに出かけます。笙子はそこで会いたくない消防団の男に会います。少し付き合っていた大林でした。 大林とは合コンで知り合いました。横浜で大学に通っていたと言います。横浜、という言葉に惹かれてつい横浜でデートします。しかし彼はあまりに傍若無人な態度でした。笙子は途中で帰宅しました。それからもしつこく言い寄られますが笙子は無視しました。するとその大林が。。。。 第三章、美弥谷団地の逃亡者。陽次と浅沼美衣はつきあっていました。二人は湘南に来ています。二人は携帯の出会いサイトで知り合いました。二人の共通の話題は相田みつをの詩でした。何も荷物を持っていなかった二人は水着や帽子などの買い物をします。支払いはいつのまにか陽次が持っていた、浅沼真理子名義のカードで行いました。 次第に美衣は陽次に束縛とDVを受けます。それでも付き合い続ける美衣でした。たくさん良い所もあったからでした。しかし母親は陽次と別れろ、と言い、警察に相談に行き。。。。 第四章、芹葉大学の夢と殺人。未玖と雄大は大学の同級生でした。大学二年生の未玖は夢の塊でした。絵で食べて行くのが夢で、何度も作品を投稿し、伝手をたどって雑誌に挿絵を連載したりしていました。その未玖に声をかけてきたのが雄大でした。夢を叶えた未玖はすごいと言います。そして自分にも夢があると言いました。雄大は医者になりたいと言います。大学を止めて医学部に入りなおしたいと言います。 美玖と雄大は付き合います。ベッドも共にしますが、相性は良くありませんでした。そして医学部の次の夢はサッカー選手になる事だ、と言い、美玖がどこでサッカーをやっているのかと尋ねると、大学の体育の授業だと言います。美玖は苛立ちを抑えられませんでしたが、それでも雄大の事が好きでした。 美玖は指導教授の坂下に妙に粘着されています。講義に遅刻するなと夜中に電話してきたりしますが、他の女子大生には適当な態度でした。それを面と向かって雄大が注意し、学業に身が入らないこともあり、教授と雄大は険悪な仲になりました。そのせいとだけ言うわけではありませんが、雄大は留年しました。医学部受験を望んでいたのでした。 美玖は教員採用試験に合格します。雄大は医学部を不合格になりました。雄大は自分の夢の実現だけを望み、美玖の事は二の次でした。しかし未玖は雄大と別れられません。月に一度、雄大の家を訪問し、二年間恋人関係を維持しました。しかし雄大は、姉と相談した。美玖は雄大と結婚願望があるだろうから、雄大の夢実現のために別れてくれと言います。 しかしその別れは名ばかりでした。友達のままでいようと言い、雄大は未玖をいいように利用します。しかし今年は留年最後の年でした。以後卒業しなければ除籍になります。もちろん医学部入試は失敗続きでした。思い余った雄大は。。。。 第五章、君本家の誘拐。良枝はショッピングモールに買い物に来ていました。ふと気づくと娘の咲良を乗せたベビーカーがありませんでした。驚愕した良枝はモールのスタッフにすがりますが、どこにもベビーカーはありませんでした。 良枝はずっと子供を渇望していました。26歳で結婚し、3年たっても授かりません。夫は全く非協力的です。しかしついに良枝は妊娠しました。歓喜する良枝には周囲の普通の反応が冷たく映ります。出産後は産休を取り、実家でひと月過ごし、娘と家に帰ります。夫は育児に全く協力しません。夜泣きをあやすことも決してやりません。追い詰められた良枝は咲良を思わず叩いてしまいました。 良枝は次第に咲良を一人で置いて買い物に行くようになりました。簡単な事だったのでした。それがあんな結果を生んでしまったのでした。その後驚きの結果が。。。。 小説の手法としてはやや古いです。人々を葛藤させ、そこから生じるイライラ感が小説の骨子です。やや馳星周などのノワール小説に近いです。直木賞を狙った作品のように見受けますが、狙って取れれば苦労は無い。直木賞を取った小説家としての技量は大したものだと思いました。 しかし、辻村先生の現在の代表作、かがみの孤城に比べればスケールがだいぶ小さい。また、辻村先生お決まりのハッピーエンドもこの小説には用意されていません。良くここからかがみまで深化したものだと感心しました。やはり辻村先生ただものではありませんでしたね。
by rodolfo1
| 2019-09-05 02:59
| 小説
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