第一部、沈黙の春。文化大革命のさ中、知識人たちはつるし上げられて次々に自殺し、最後に生き残ったのは物理学者葉哲泰でした。哲泰は自己批判を拒否し、女子紅衛兵に撲殺されました。娘の葉文潔は、それを眺めている事しか出来ませんでした。 しばらくの後、文潔は大興安嶺で開墾作業をしていました。取材にやってきた記者にレイチェル・カーソンの沈黙の春をもらい、熟読しました。父親の死で傷ついていた彼女の心は、この本によって、人類のすべての行為が悪である事について考える事を始めたのでした。 記者に本を返しに行くと、紅岸基地の事を教えてくれました。中国軍はここに巨大なパラボラアンテナを作っていました。記者は中国軍がやっている開拓事業は環境破壊だと指摘する手紙を文潔に清書してもらい、投函しましたが、それが問題視され、記者は文潔に濡れ衣を着せ、手紙は彼女が出したものにされます。 拘禁された文潔はヘリで紅岸基地に連れていかれます。ヘリの中で、雷志成と、かつての父の教え子楊衛寧に、かつて文潔が書いた論文の事を問われます。それは太陽の放射層内に存在するエネルギー境界面について、数学的にアプローチした論文でした。そして雷は、紅岸基地で一生働くなら罪を償えると言い、文潔は承諾しました。 第二部、三体。髪の毛の百分の一の細さのワイヤで車を切断できるというナノマテリアルを研究する汪淼の元へ、警官の史強が訪れます。ある重要な会議に出席しろと言いました。その会議は、議長を中国人少将が勤め、中国人の高度な専門家と基礎科学の研究者、NATO軍の連絡将校やCIAの担当官が参加していました。 史強は、ここは作戦司令センターなのだと言いました。そして三人の物理学者が、この二カ月以内に自殺したと言いました。三人のうちの一人は、かつて汪が参加した粒子加速器プロジェクトの理論モデルを作った若い女性科学者、楊冬でした。楊冬の遺書には物理学は存在しない、と書かれていました。三人はみな科学フロンティアという会議に参加していたと言います。科学フロンティアの目的は、物理学の限界を研究する事でした。 少将は汪に、内部情報を得るべく科学フロンティアに加入してくれと頼み、汪は承諾しました。そして少将に、世界は現在、石器時代から今までの中で、最大の危機に直面していると言われました。汪は会議に参加していた丁儀を訪ねることにしました。 丁儀は楊冬と付き合っていました。酔っぱらっていた丁に汪が楊冬の死因を尋ねると、丁は最近構築された三台の高エネルギー粒子加速器の実験から、不変のはずの物理法則が一定でない、という結果が出たと言いました。そして想像もつかない力が科学を殺そうとしていると言いました。 汪の趣味は写真です。すると、それにカウントダウンの数字が写っていました。数字は次第に減って行きます。脅えた汪は、申玉菲に電話します。申はすぐ来いと言いました。申の家には夫の魏成も居ました。申は自室で大がかりなTVゲームをやっていました。ゲームの名前は三体でした。 汪は申に自分に起きた事を説明します。申はナノプロジェクトを中止しろと告げました。驚いた汪が帰る際に、潘寒がやってきました。彼は反科学の学者です。科学は病変であり、原子力開発や化石燃料などの攻撃的テクノロジーを捨て、エコロジックな生活を目指そうとしていました。 潘は申に、自分たちを追い詰めるなと魏成に言うよう警告しました。汪は帰りますが、二人はなおも対峙していました。史強が汪を尾行していました。その夜、汪は、カウントダウンが写真のみならず彼の視界に写っている事に気が付きました。恐ろしくなった汪は、ナノマテリアルの開発を中止します。するとカウントダウンが停止しました。 汪は申を問い詰めます。カウントダウンの後に何が起こるのかと。申は沈黙します。これは単なる手品だと言う汪に、申はどうすれば信じるのか尋ねます。友達の汪を何とか助けたいと言います。そしてモールス符号対照表を渡し、宇宙背景放射を観測しろと言いました。 汪は申のやっていたゲーム、三体にログインします。ゲームには周の文王が現れます。このゲームでは乱紀と恒紀があり、恒紀は安定した気候が続き、文明は進化しますが、乱紀には主に闇と極寒の気候が続きます。しかし突然巨大な太陽が昇り、あたりは熱波に包まれ、発火します。しかしすぐに太陽は沈みます。乱紀には文明は滅亡します。このゲームでは大抵の人間は乱紀には身体を脱水させ、生き延びています。水に漬けると元に戻る設定です。 二つの飛星が現れ、 ゲームは恒紀に移行しました。みな太陽の運行の法則を知ろうとしています。それが文明の存続には必要でした。文王は、紂王に正確な万年暦を献上しようとしていました。紂王の住む朝歌には巨大なピラミッドがありました。脱水した人間は、みなこのピラミッドに収納されています。ここでしか乱紀を生き延びられないのでした。文王は万年暦から今後の乱紀と恒紀を予測します。しかし予測は外れました。 汪は揚冬の母親、葉文潔に会います。文潔は揚冬の事を話し、宇宙背景放射を観測できる施設を教えます。汪はその施設を訪ね、午前一時に宇宙背景放射のゆらぎを観察します。それをモールス符号で解読すると、あのカウントダウンでした。愕然とする汪の前に再び史強が現れました。史強は、誰かが科学技術を壊滅させようと暗躍していると言いました。暗躍する敵は強大で、何故か基礎科学を恐れていると言いました。 汪は再び三体にログインしました。今回汪を出迎えたのは墨子でした。墨子もまた太陽運行の謎を解こうとしていました。しかし墨子も予測に失敗し、文明は全滅しました。 汪は再び文潔に会い、文潔は紅岸基地について語りました。紅岸基地は辺鄙な場所であったために、スタッフは嫌がって皆辞め、文潔はいつの間にか上級職員になってしまいました。楊衛寧は紅岸基地の真実を文潔に告げます。その目的は、地球外生命体とのファーストコンタクトでした。コンタクトの試みは既に世界各地で行われていたのでした。 汪は文潔に、何故ただのコンタクト計画がそれほど秘匿されていたのか聞きました。文潔は、コンタクトがもたらす影響はおそらく悪いものだからだと答えました。そして紅岸計画が頓挫したのは、ついにコンタクトに成功しなかったからだと言いました。電波の出力が弱すぎて別の太陽系には届かなかったのでした。文潔は基地に入って四年目に楊衛寧と結婚し、楊衛寧と雷志成は基地内の事故で死にました。その直後に楊冬が生まれました。 汪は三体にまたログインします。今回汪は、三体世界の秘密を暴くつもりでした。今回汪を出迎えたのは教皇グレゴリウス達でした。汪は、この世界の太陽の運行が無法則であるのは、太陽が実は三つ存在し、三つがお互いに引力を及ぼしているからだと断定します。三体問題でした。世界が一つの太陽に捉われている時だけ恒紀になり、三つが遠のくと、それは飛星となって乱紀に陥ると言いました。 皆は誰も三太陽を見たものは居ないと言いますが、汪は、見たものはすべて焼き尽くされたから記録が無いのだと答えました。皆は汪を嘘つき呼ばわりし、火焙りにしようとしますが、その時、三太陽が現れ、地上は火の海と化しました。 汪は、史強に呼び出されます。そこには申の夫、魏成もいました。魏成は命を狙われていました。魏成は数学の天才で、数式を使わなくても解がわかるのでした。教師に才能を見抜かれ、大学院に進学しますが、教師としては全くの無能でした。数学の解の過程を人に説明する事が出来なかったのでした。 魏成は大学を首になり、とある寺院に入ります。住職は彼に言います。空は無ではない。空は存在の一種だ、そなたは空をもって自らを満たす必要があると。魏成はからっぽな心の中に一つの球を創造しました。それは不動の存在でした。次にもうひとつ球を創造しました。それらは単に互いの引力によってくっつき、そのまま動きませんでした。あるいは初期運動が与えられれば、お互いに相手の回りをただ回っていました。そして三つ目の球を創造しました。すると劇的な変化が起こりました。 三つの球は全く不安定に動き回りました。魏成はその動きを方程式で記述し始め、生まれて初めてその問題に集中しました。三体問題でした。それを解決するのに魏成は進化的アルゴリズムを使いました。コンピューターを使えない魏成はその計算を紙に書いては燃やしていました。 ある時、若い観光客の女性が、燃え残りの紙を持って魏成の前に現れます。これは三体問題だと言い当てました。申玉菲でした。彼女は夜一人で祈ります。「仏様、どうかわが主を苦界から逃れさせてください」と。そして自分と一緒に来れば、スーパーコンピューターを提供するし、研究環境も好きに整えると言いました。魏成は主とは誰かと申に聞きますが、申は沈黙します。住職にそれを質問すると、住職は、彼女の主は現実に存在する、と断定しました。そして彼女と一緒に行かない方が良いと助言しますが、魏成は山を降りました。 申はそれから数年夢のような研究生活を送り、申と結婚します。申は科学フロンティアの仕事だけをやっていました。魏成の目的は、三体の運動をすべて予測する事でした。しかし魏成は、知らない男から、三体の研究を辞めなければ殺される、と言われました。しかし申は、夜中に魏成に銃を突き付けて、研究を辞めたら殺す、と言いました。それで魏成は史強を訪問したのでした。 史強は銃の不法所持で申を逮捕しようとしました。しかし申は既に撃ち殺されており、犯人は逃亡しました。魏成は、申が昨日潘寒と口論していたと言いました。二人はお互いを敵呼ばわりしていました。申は潘に、主の力を人類を滅ぼすために使おうとしていると言い、潘は申に、主の降臨を阻止しようとしていると言いました。潘は申に、総裁が望んでいるのは人類の滅亡か、それとも救済かと尋ね、口論は終わりました。 汪は魏に、進化的アルゴリズムのアウトラインをもらいました。魏は汪にそれを発表しろと言い、ほんとうのところ、主がもはや自分自身すら守れなくなってきているところが問題だと言いました。 汪はレベル2になった三体にログインしました。今回汪を出迎えたのはニュートン達でした。彼らはコンピューターなしで三体問題を解決するために秦の始皇帝に会います。三千万人の兵士を借りる為でした。ニュートン達は、手旗を持たせた三人の兵士を使って論理演算回路を作って見せます。それを一千万組作ってコンピューターとして使いました。 ニュートン達は計算の結果を始皇帝に渡しました。計算通りに太陽は昇りました。しかし災難が起きます。その太陽は、三恒星直列だったのでした。三太陽の引力に地上は引き寄せられます。三体世界の地表にあるすべてのものが太陽に吸い出され、文明は滅亡しました。汪がログアウトすると、三体のシステム管理者から電話が入り、オフ会があるから参加しろと言われました。 オフ会の参加者は汪も含めて7人でした。幹事は潘寒でした。汪は潘に尋ねます。三体は単なるゲームなのかと。潘は、三太陽世界は現実に存在すると言いました。そして、実際に三体文明が人類世界を侵略してきたらどう感じるかと質問してきました。 何人かは反対でしたが、一人の学者はアステカ文明を持ち出します。アステカが滅びなければ全アメリカ大陸はアステカ化され、血なまぐさい暗黒の大帝国になっただろうと言いました。潘は、賛成者だけを会場に残して同志として迎え、反対者をゲーム三体から追放しました。 汪は三体にログインしました。今回汪を出迎えたのはアインシュタインの弾くバイオリンでした。空には巨大な月が浮かんでいました。国連事務総長が現れ、三体記念モニュメントである巨大な振り子を披露しました。それは墓碑でした。この世界では三体問題は解決不能とされました。汪は魏成の数学モデルを披露しますが誰も相手にしません。 先の文明も三太陽によって破壊され、世界は大断裂を起こし、吸い上げられた部分が月になっていました。9000万年かかって文明は再復興しますが、天文学的発見によって、太古の昔、三体星系には12の惑星があったとされました。今はたったひとつです。他の11の惑星はみな太陽に飲み込まれたのでした。150万年から200万年後にはこの世界も飲み込まれると言います。たったひとつの希望は、三体星系を離れて他の惑星に移住する事でした。 汪はログアウトしましたが、緊急メッセージが表示されました。三体サーバは間もなくシャットダウンするので各自は自由にログインしろと言います。これから三体は最終ステージに直接ジャンプすると言いました。 ログインすると、そこには全三体人が集まっていました。三体星間艦隊が出航するところでした。目的地は四光年の彼方にある地球でした。そこでゲーム三体は終了しました。後は地球三体協会に加入しろと言いました。 第三部、人類の落日。汪は再びオフ会に参加しました。今回の会は300人以上が参加します。潘は自分が申を殺したと言います。協会に対する責任感からだと言いました。世界政府は戦争の準備を始めており、欧州と北米では三体協会に対する締め付けが始まっていると言い、救済派を一掃するべきだと言いました。そして地球三体協会は蜂起するべきだと言います。そこに総裁が到着しました。総裁は文潔でした。 彼女は人類の専制を打倒せよ!と叫びます。しかし潘の責任を追及します。潘は、あの日魏成を殺しに行ったと言いました。彼が三体問題を解決したら主は降臨せず、三体事業も瓦解する、そして先に撃って来たのは申だったと言い訳します。文潔は潘に、三体協会の綱領を言えと言いました。それは人類社会はもはや自分では問題の解決ができない。主がこの世界に降臨し、人類社会を強制的に監督、矯正し、まったく新しい正しく善なる人類文明を創造することを願うというものでした。 降臨派は、人類は邪悪であり、最終目標は主によって罰を与えてもらう、すなわち人類全体の滅亡が綱領だと言います。三体協会の大スポンサー、マイク・エヴァンズもそれが目的だと言いました。しかし文潔は、降臨派は主が協会に宛てたメッセージを秘匿改竄し、協会の承認なしに大量のメッセージを主に送信した、と断罪しました。エヴァンズが潘を送り出した目的は魏成だけでなく、救済派になった申をも殺す事だったと言います。潘は粛清されました。 文潔は汪に話しかけます。彼のナノマテリアルは、主が最初に消滅させたいと思っている技術だと言いました。宇宙エレベーターなどが発明されれば主は困るからでした。文潔は紅岸基地の話を続けます。当時紅岸基地では、太陽雑音による受信障害が問題になっていました。太陽放射の変動は予測不能でした。文潔は独自に研究を進め、かつて自らが数学的計算によって想定した太陽放射層の中にあるエネルギー境界面に着目します。このものは、届いた電波を増強して反射する性質があったのでした。その反射を使えば太陽系外に電波を送信できました。 放射実験を提案しますが、雷と楊は拒否しました。政治的に危険だと言うのでした。しかし文潔は驚きの行為に出ます。結果、驚くべきことが8年後に起こり。。。。 マイク・エヴァンズは中国の片田舎でひたすら植樹をしていました。ツバメの巣をかける木が伐採されて絶滅寸前だったからでした。自分の父親が多国籍石油企業の社長をしており、幼少の頃、彼の所有するタンカーが座礁して原油が流出し、あたりの海鳥がみな死んだのでした。鳥より石油の方が大事だと父は言いましたが、マイクの望みは命を救う事でした。文潔は新しい天文観測基地を建設するべく、候補地を調査していて彼に出会ったのでした。 数年後、マイクは文潔に連絡します。植林していた森が地元民によって伐採されていました。文潔は中央政府に抗議しようと言いましたが、マイクは意外な事を言いました。自分の父が全財産を自分に贈与し、自分は45億ドルの財産家だ、いつでも伐採をやめさせて新たに植林できる、しかしそんな事をしても何にもならないと言いました。全人類が同じ事をする。すべての野生動物はみな全滅する運命だと言いました。文潔はその考えに共鳴します。そして。。。。 いやいや。ものすごい小説が現れたものですね。ものすごい量の伏線が張られ、それが結末で見事に回収されて行きます。まさに中国こそ、とことん絶望した知識人が全人類を滅ぼそうと考えてもおかしくない国ですからね。なんでも英訳されたこの小説には沢山の脚注がつけられたとか、そら文王とか墨子の事など英米人には理解不能でしょうから。しかも中国人自身にはあの紅衛兵騒動の情報が正しく伝わっていないんじゃないでしょうか?まさに我々日本人の為にあるような画期的なSF小説でした。続編の翻訳が待たれます。
by rodolfo1
| 2019-10-02 02:41
| 小説
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