小野は、西武多摩川線、多摩駅の駅員でした。駅の近くには警察大学校があり、そこで教授をしていた合田雄一郎の顔を小野は覚えていました。通っていた高校の元美術女性教師が近くの野川公園で殺され、その捜査に来ていたのでした。当時の捜査員の一人浅井隆夫が、多磨霊園の契約社員となって多摩駅に通っており、浅井の息子、忍は事件に関わっていました。 小野には彼女の優子が居り、いずれは結婚する積りでした。しかし小野には忘れられない女が居ました。高校の同級生の上田朱美でした。彼女は女優志望の美少女でした。しかしその朱美は同棲していた男に殴り殺されました。逮捕された男は、朱美が古い絵の具チューブを見せて、昔野川公園で殺された女性が持っていたもので、その場に落ちていたので拾ったと言いました。そこに死体があった筈だろう?と男は聞きましたが、いつもの嘘だろうと気にも留めませんでした。男はその絵の具を捨てさせました。朱美は心療内科で鬱病や睡眠障害の治療を受けていました。 捜査本部は、その話を聞いて大騒ぎになります。野川公園事件は未解決だったのでした。その捜査を指揮したのが合田でした。その件が合田の耳にも入ります。合田は思います、朱美とはあの時の少女Aだったのかと。合田は暗澹たる気持ちになりました。自分が何かを見落としたせいだと思いました。 捜査班は、朱美の母親、上田亜沙子の元に事情聴取に向かいます。その頃、朱美の親友だった栂野真弓の母親、雪子は、朱美の事を嫁ぎ先の娘にメールしていました。雪子の母親、節子が殺された元美術教師だったのでした。浅井隆夫は、駅ですれ違った合田と思しき男の事を追想していました。彼の息子、忍はADHDを患っており、仕事先をしばしば首になっていました。 話は12年前の野川事件当日に戻ります。栂野の父母は不和であり、祖母の節子もやはり二人と不和でした。娘の真弓は自室に引きこもり、節子は日課の写生に出かけました。小野は朝練の為、早朝自転車で出かけ、途中で浅井忍が自転車で走っている所を見かけました。朱美は前日から家に帰っていませんでした。朱美は節子の絵画教室の生徒でもありました。節子は朱美に目をかけていたのでした。しかし朱美は半分家出状態でした。学校にも通わず、ゲーセンやプリクラで遊び呆けていました。捜査線上に何度も朱美の名前が浮かび上がりました。 事件は今から11年と3ヵ月前、2005年12月25日に起こりました。野川公園で倒れていた節子を近所の人が発見しました。顔に殴打の跡がありました。落ちていた絵の具箱の絵の具が一本足りませんでした。その頃、栂野家を警察官が見回っていると、不審な男子が庭先で発見されました。男子は、浅井忍と名乗り、ここはドラクエのトロデーン城だとかおかしな事を口走り、不審者として拘束されました。父親の浅井は捜査本部から外されました。浅井は、栂野真弓のストーカーでもありました。ある日には節子に見とがめられて怒鳴りつけられていました。しかし何の物証も上がりませんでした。忍は放免されました。 節子の葬式には、多くの元生徒も来ていました。朱美も居ました。朱美の友達のリナとミラも居り、含み笑いを交わしていました。捜査員達は、あれはワルだ、と看破しました。リナとミラは、栂野真弓の父、孝一を買春で強請っていました。しかし孝一が買春していたのはその二人では無かった模様でした。朱美が援助交際に近い事をしており、その相手が孝一であった可能性が示唆されました。2005年以降、真弓と朱美は袂を分かっていました。 浅井忍は、節子が自分を怒鳴りつけた日、不機嫌だった原因は真弓が知っている、と捜査員に言いました。その不機嫌の原因は何か?と捜査員達は考えましたが、答えは得られませんでした。孝一の不始末を節子が知っていた可能性が浮上しました。また、真弓のストーカーの件、真弓の喫煙やゲームセンター通いも節子は知っていました。 刑事達は最後に撮られた朱美の写真を持って聞き込みに回り、聞き込みされた男達は、ネットに朱美の事をアップロードし始めました。捜査員達はそれを注視します。具体的な書き込みを行った人物を特定して、朱美の事を聞きます。朱美は履いていた下着を男達に売っていたと言いました。その人物は朱美を暴行しようとしたとも言いました。 真弓は婚家先で初めての出産をしました。母親の雪子が現れ、朱美について何か知らないか?と聞き、真弓は、ママは頭がおかしいと答えました。しかし真弓は、朱美の母親から、朱美が家に帰って来ない、どこにいるか知らないかと昔聞かれた事を思い出しました。浅井忍は、合田が警察大学に勤めている事を知り、大学にしばしば訪ねて来ます。いつでも自分に連絡すれば良い、と合田は言い、連絡先を交換しました。 その頃、忍は勤め先をまた首になっていました。父親の隆夫は忍の部屋を訪れますが、忍は居ませんでした。部屋を家探しし、以前忍が勝手に持ち出していた自分の携帯を発見しました。その携帯には野川事件当日の多くの画像が残されていました。隆夫は携帯を持って帰りました。その携帯は、名義が父親であった為に、捜査の目を逃れていたのでした。 刑事達は真弓を訪問しました。あの事件の朝、朱美が現場に居た可能性があると言いました。朱美ちゃんが祖母を殺したのか?と真弓は尋ねました。どこで警察は間違ったのだろうと真弓は思います。そもそもこの事件の関係者の一人である自分は本当に何も知らないのかと自問自答しました。朱美にまつわる事を何とか思い出そうとしました。 浅井忍は部屋から携帯が消えている事に気づきましたが、服用している薬の副作用で、まともに物を考えられませんでした。そもそも何を撮ったかも覚えていませんでした。しかし捜査員の訪問を受けて、その携帯の存在を明かしました。処分していなければ父親が持っている筈だと言い、捜査班は色めき立ちました。しかし父親は携帯は処分したと断言しました。 小野は元同級生と飲み会をしていました。そこで朱美の事が話題に上ります。別の高校のバスケ部主将だった玉置の事を朱美が好きだったと言う男がいました。その頃真弓は自分の高校時代の日記を読み返していました。浅井忍は、また栂野家に近寄り、110番通報されました。何かの思い出を無くしたので、それが何かわかるかもしれないので来て見たと言いました。警察からの帰路、忍は小野とすれ違い、小野は、その際に事件の朝、朱美を見かけた事を思い出しました。 真弓は、日記に朱美x玉置、という記載を見つけます。朱美と玉置は良く吉祥寺でデートしていました。真弓は朱美に嫉妬していたのでした。その頃、ある男がとあるバーで朱美の最後の写真を見、それをインスタにアップしました。忍が検索でそれを見つけ、殺意を催します。リナもその写真を見つけ、真弓に送って来ました。真弓の母、雪子は、朱美とその母の亜沙子が祖母の節子を殺したまま無実で暮らしている、という観念に取りつかれ、真弓を詰問します。 忍はひたすらネットを検索し、ついに真弓の自宅を突き止めました。また、忍は携帯を返すよう父親に頼みますが、断られました。合田は、朱美の画像のネット検索結果から、玉置を割り出しますが、明美との具体的な繋がりは何も上がってきませんでした。しかし、真弓はSNSで玉置と繋がるようになり、ぼつぼつと情報交換を始めたのでした。玉置は朱美とセックスしていたと言いますが、リナは、単にホテルで朱美に下着を脱がせてそれに興奮していただけだと言いました。それは真弓の父親も同じ事だったと言いました。 忍は、真弓の自宅の前に立っていた所を、ストーカーと咎められてまた警察沙汰になっていました。忍は失われた記憶を取り戻したいと言っていると、真弓に事の次第を報告に来た警官は言い、それはおそらく栂野家の前に屯していた玉置の事だろうと真弓は思いました。玉置は少女Aというハッシュタグで、SNSに投稿しまくっていたからでした。刑事達は、朱美が自分と玉置の事を祖母に知られたらショックを受けたか?と尋ね、真弓は恐らくひどくショックを受けただろうと言いました。警察は玉置を尋問し、明美と一緒にラブホテルに居る所を真弓の父親に目撃され、朱美は慌てていたと言いました。 忍がまた真弓の家に現れ、真弓は忍と話をします。忍は、栂野節子に自分が怒鳴られた時、物凄くイライラしていたのは何故か?と真弓に聞き、真弓は自分も思い出すから、忍も思いだせ、と忍を励まします。忍は、栂野の家の前で玉置と出くわして、玉置に怒鳴られ、それを節子に見咎められて怒鳴られた。事件の二日前には玉置はいなかったが、やはり節子に怒鳴られ、しかし節子は自分の事は眼中に無かったと言いました。そして、事件の日、忍は朱美を見たし、小野も朱美を見た筈だと言いました。しかも忍は、事件の二日前、自分が節子に怒鳴られていた時、節子の目に写っていたのは公園の西門に居た朱美だった事を思い出しました。 浅井隆夫は、忍の携帯を着信拒否にし、自宅の鍵も交換して忍が戻れないようにしていましたが、妻を入院先の病院から貰い下げて、東北を旅行し、自宅をたたんで妻と共に東北に転居します。それを機会についに携帯を忍に返しました。忍は真弓、真弓の母雪子、小野、警察や合田を始めとする様々な人々とその画像を共有し、それを見た関係者達は、当時の記憶を呼び起こし始めるのでした。 写真を見た小野は、朱美が節子に手紙で呼び出されていると言った、と真弓に言いました。手紙の話を母親の雪子にすると、雪子は朱美の母親、亜迫子にその話をメールし、亜沙子は。。。。 多数の群像が一つの事件を想起、推理する事で謎の真相が次第に明らかにされる、という小説手法は高村先生のお手の物です。今回もその迫力はゆくりなく発揮されていました。ただ、高村先生の御趣味でもあるだろうゲームの記載がすさまじく、はっきり提示されなかった真相と相まって、この作品を一般受けはしないものにしてしまったのではないかという危惧を持ちました。読むのがなかなかしんどい作品でありました。
by rodolfo1
| 2020-04-03 02:11
| 小説
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