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凪良ゆう作「流浪の月」を読みました。

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凪良ゆう作「流浪の月」を読みました。本年度、本屋大賞を受賞されました。おめでとうございます。受賞は当然であった名作だと思いました。

小学生の更紗の母親は、周囲からマイペースすぎてやばい人、と思われていました。友達は、更紗の両親は変わっている、と言い、更紗も変な家の子だからと仲間はずれにされていました。たまにアイスクリームが夕飯になる事も、子供には過激とされた映画を家族で見る事も、しばしば両親が人前でキスする事も、クラスメイトには信じられない事でした。この幸せが永遠に続くと更紗は考えていました。

しかし父親は病気で亡くなり、母親は恋人と家出しました。更紗は伯母さんの家に引き取られますが、夫婦の息子から性的虐待を受けました。更紗は自分を押し殺し、周囲に合わせて息詰まる暮らしを続けていました。公園で嫌々友達と遊んでいると、自分達を見つめる若い男がいるのに気が付きました。みんなは男を警戒しますが、更紗にはみんなと別れた後、行く所がありませんでした。家に帰ればまた性的虐待が待っていました。更紗は男の居る公園に戻り、一人で本を読んでいました。

何日経っても声をかけてこない男の事を、更紗は自分が男の好みでないからだ、と結論しました。ある雨の日、やはり公園に居た更紗は、雨に濡れながら、泣き喚きたい気持ちと戦っていました。すると、あの男が傘をさしかけ、うちにくるか?と尋ねました。更紗に行き場所が無い事を知っていました。更紗は、もう伯母の家には帰らないという強い決意で男について行きました。男は、自分は佐伯文だと自己紹介しました。

文は、自分は母親によって育児書通りに正しく育てられ、ジュースも炭酸飲料も飲ませてもらった事がない、と言いました。更紗はアイスが食べたいと言い、文はアイスを出して、更紗は喜んで食べました。翌朝、更紗は文の部屋で目を覚ましました。母親が家を出てから初めての安眠でした。メモに、帰る時は鍵をしめてドアポストに入れてくれとありました。更紗は文が用意してくれた朝食を食べ、また寝てしまいました。夕刻目覚めると、文が帰宅していて、更紗を見つめていました。目が黒い穴のような光のない眼差しでした。

更紗は文に自己紹介をし、ずっとここにいても良いかと尋ねました。文はいいよと答え、更紗の命の恩人になりました。文はロボットの様に規則正しい生活を毎日続けています。更紗は文にケチャップをつけたハムエッグをしつこく勧め、文は渋々食べましたが、おいしかったようでした。文はこちら側に歩み出してくれたのでした。テレビから、更紗が行方不明になった、というニュースが流れます。自分は帰ろうか?と文に聞きますが、自分はここにいたいと告げました。逮捕されるかも、と文に言うと、それはよくないが、でもいろいろな秘密が明らかになる、と言いました。何の秘密か文に聞きましたが、文は答えませんでした。

しかし、文は更紗の我儘を聞き入れ、次第に更紗の側に歩み寄って来ます。夕飯にアイスを食べるようになり、NHK以外のアニメも見るようになりました。DVDを借りて来てくれ、遅くまで一緒にそれを見、文が寝坊したりするようになりました。デリバリーのピザを取って寝っ転がって食べるようにもなりました。DVDを見ながら、更紗は自分の身の上を文に打ち明けました。

更紗は文を、楽しい事を何も知らないと言い、文は更紗の事を、知っていて当然の事を知らない、と言いました。パンダのニュースを見て、パンダを見たくなった更紗は文に頼んで動物園に連れて行ってもらいました。しかしその動物園で更紗は見つかってしまいました。警察官が追って来、更紗は文に逃げて、と言いましたが、文は逃げませんでした。どこかほっとしていました。ふみいいいい、ふみいいい、と更紗は文を呼び続け、その模様を沢山のカメラが撮っていました。デジタルタトゥーとしてその後二人はずっと烙印を押されたのでした。しかし更紗には、何が罪なのかわかりませんでした。

文はカウンセラーに質問されます。文になにかされたのかと。更紗は文は悪くない、自分に悪いことをしていたのは伯母の子供だ、と言いたかったのですが、恥ずかしくてどうしても言えませんでした。更に最悪な事を言われます。おうちに帰れると。更紗は心の底から絶望しました。伯母の家に戻ったその夜、息子が部屋にやって来ました。しかし更紗は息子を酒瓶でなぐりつけました。伯母たちはその模様に声を失います。更紗は伯母の家を出され、児童養護施設で暮らす事になりました。しかし自分が何をされていたのかついに人に言えませんでした。

更紗は成人し、児童養護施設を出てファミレスでバイトしていました。その頃亮くんと同棲していました。どこに行っても誘拐事件の被害者というレッテルはついて回りました。傷物にされた可哀そうな女の子、というレッテルでした。いつも白い目で見られていました。亮くんは、更紗を実家に連れて行きたがっていました。更紗と結婚したいと言いました。更紗の過去を両親はきっと許してくれると亮くんは言いますが、それに更紗は違和感を強く持ちました。なんとか実家行きを日延べしていました。更紗は男性との性行為が好きでありませんでした。どうしても過去のトラウマが拭えなかったのでした。

ネットを検索すれば、文と更紗の動画が溢れていました。誰も文だけが更紗の救いだった事を認めてくれませんでした。更紗はいつも文を懐かしがっていました。職場の送別会の二次会で夜の8時からオープンするカフェに行きました。calicoというその店には文が働いていました。亮くんには残業と嘘をついて更紗は何度もcalicoに通いました。文との事を亮くんに話そうとしましたが、亮くんは更紗は可哀そうだと言うばかりでした。

ある日、calicoにいると、亮くんが現れました。駅で更紗を見かけてついて来たと言うのでした。帰って亮くんはコーヒーサーバーを壊し、それを冷たい目で見ていました。更紗はぞっとしました。calicoにいると亮くんからメールが来ます。更紗を連れ戻そうと言うのでした。更紗は、今晩は帰らない、と亮くんにメールしました。calicoが閉まるまで店の前で待っていると、一人の女と一緒に文が出て来ました。わたしを覚えてる?と問いかけましたが、文は、最近よく店に来てくれますね、と言っただけでした。

翌日バイト先を出ると亮くんが待っていました。強く更紗を問い詰めていたところに電話が入り、祖母が倒れたと言いました。更紗は亮くんと一緒に実家に帰りました。亮くんの実家は更紗を歓迎してくれましたが、従妹の泉は更紗の腕の痣に気が付き、亮くんにやられたのだろうと泉は聞きました。亮くんはDV男だと言いました。亮の母親は父親のDVで離婚しており、亮くんは複雑な家庭に育った、いざという時に逃げ場の無い女とばかり付き合うと言いました。

更紗は、文を諦めて亮くんと結婚しようと思い始めました。同僚の安西さんに自分の身の上を打ち明けたりもしました。calicoに行くのを辞め、ネットで文の情報を検索しました。そこに久しぶりに情報の更新があり、calicoの写真と、文がコーヒーを淹れている画像がアップされていました。更紗は驚愕しました。犯人をつかまえようと文のマンションを見張りますが、そこに文と一緒だった女性、谷さんが現れました。更紗をストーカーだと非難し、更紗は愕然としました。

唯一職場で親しくしていた安西さんから、不倫している彼氏と旅行するから娘の梨花を預かってくれと頼まれ、亮くんに伺いを立てるとOKが出ました。やってきた梨花と三人で動物園に行きました。帰路、歩けなくなった梨花をおんぶした亮くんは、本を見たいからと更紗を先に帰しました。亮くんと梨花は、本屋の後でカフェに寄ったそうでした。文のサイトを見ると、今度は文の店と文の画像が更にはっきりとアップされ、梨花の足も映り込んでいました。亮くんが画像をアップしていたのでした。亮くんを問い詰めると、亮くんは更紗に暴力を振るいました。亮くんは文の事を知っていたのでした。更に亮くんは暴力を振るおうとしますが、更紗は亮くんを花瓶で殴りつけ、家を飛び出しました。

更紗はcalicoへ行きました。文が来て、その有り様はどうしたのかと訊ねました。文は、更紗は自分には関わらないほうがいいと思って黙っていたと言いました。更紗は文に謝りました。逮捕された時、きちんと更紗が警察に説明しなかったから文の立場が悪くなったと言いました。しかし文は、今の更紗は昔の更紗のようだと言いました。ぐうたらで少し馬鹿な子だと。しかもすごく自由だったと言いました。

更紗は、自分は性行為が好きでない。自分は欠陥品だと言いました。文は、わかる、自分も世界からはじき出される側だからと言いました。そこへ亮くんが現れました。ドアを蹴り、怒鳴りながら更紗を呼びます。しかし亮くんの言葉は次第に哀願に変わり、更紗は出て行って亮くんと家に帰りました。翌朝出勤すると、殴られた顔をみんなに心配されます。心配した店長からは、正社員にならないかという申し出を受けました。安西さんに事情を説明すると、自分もDVを受けていたからわかる、DV男は嘘ばかりつくと言い切りました。安西さんは夜逃げ屋を紹介してくれました。

更紗は部屋を探します。偶然文のマンションの部屋が開いていました。更紗はそこに入居を決めました。更紗は夜逃げ屋を頼み、亮くんの留守に黙って出て行きました。店長に、正社員としての就職を頼みました。買い物をして公園に座っていると、隣に文が座りました。引っ越ししてきた更紗に気づいていました。更紗は文に谷さんの事を聞きました。彼女とは心療内科で出会ったと言いました。そして、自分は昔と何も変わらない、谷さんとはつながれないと言いました。谷さんとは別れた方がいいと思ってる、と文は言い、更紗は泣きながら安堵しました。

更紗のマンションに亮くんが現れました。今なら許すから戻って来いと言いますが、更紗は、許してもらう事は何もない、私はずっと文と一緒に居たかった、と言うと、亮くんはまた暴力を振るいました。それを目撃していたカップルに警察に通報されます。更紗は自分の知り合いだと警察官に説明し、解放されました。更紗の中には頑なな部分があります。どうしても和らがないその部分が亮くんを傷つけたのだと思いました。更紗は亮くんに、自分もあなたを傷つけた、と謝りました。亮くんはうなだれて帰りました。

安西さんはまた梨花を預けて来ました。梨花と公園に遊びに行くと、梨花は夕食に鉄板焼きが食べたいと言いました。更紗は文に、ホットプレートを貸してくれるよう頼み、文は承諾します。ついでに鉄板焼きに招待すると、あっさり承諾しました。更紗の部屋にやってきた文は、梨花に構われました。文は無愛想ながら、きちんと梨花に対応します。そういえば昔から文はそうだったと思い出しました。

翌日梨花は熱を出しました。文は、自分が更紗の仕事中梨花を見ようと言ってくれました。梨花は文に懐きます。しかし安西は梨花を引き取りに来ません。梨花は、ずっとここに居たいと言って声も無く泣きました。仕事を終えてマンションに帰ると、谷さんに咎められました。そのまま派出所に連れ込まれます。谷さんは更紗が文にストーカー行為をしていると警察官に説明しました。更紗が自分はあのマンションに住んでいるのだと説明すると、谷さんは文に電話を掛けて事の次第を報告しました。しかし文に知っていると言われ、谷さんは更紗に謝りました。

谷さんは自分は文と心療内科で知り会った、文は自分の事を何も谷さんに打ち明けない、セックスも一切無いと言いました、自分には女として価値が無い、と言いました。そうではない、文は大人の女性を性愛の対象にしていないだけだと更紗は思いました。文と梨花はcalicoに居ました。まだ安西は帰宅しませんでした。

翌朝、更紗は本社の人に呼び出されました。更紗の身の上が、ゴシップ雑誌に乗っていたのを発見されたのでした。しかし更紗は再度会社に呼び出されました。あの記事の第二弾が出ていたのでした。情報を記者に提供していたのは亮くんでした。文と梨花が写っている写真もあり、インタビューされていた亮くんが、文のような小児性愛車が女児と一緒に居るのは大問題だと話していました。更紗は首になりました。更紗は亮くんに電話し、会うことになりました。

週刊誌のインタビューを止めてくれるように亮くんに頼みましたが、亮くんは屁理屈を述べて止めようとしませんでした。更紗が諦めて帰ろうとすると、亮くんが追いかけて来ました。せめて友達でいてくれと懇願されますが、断ります。押し問答になった挙げ句、亮くんは階段から落ち、救急車を呼ぶと、亮くんは更紗が突き落とした、と救急隊員に言いました。更紗は警察で事情を聞かれ、小さい子供が家に居るから帰してくれと頼みましたが、聞き入れられません。警察はついに更紗と文が一緒にいる事を掴みました。文が梨花の面倒を今見ている事を聞き出すと、文も参考人として呼び出されました。更紗は今度も文の無実を警察に主張できませんでした。しかし警察は更紗の知らない何事かを知っていたのでした。警察で文に巡りあった更紗は。。。。

これは素晴らしい小説ですね。世間にはまだ知られていない才能ある書き手がいたものです。最終章のこの一文で泣けました。「もう離れようと何度更紗に告げたかわからない。そのたび、嫌、と更紗はあっけらかんと引っ越しの準備をした。」更紗は、母親のように独立した強い女性に育ったのですね。プロットもトリックも素晴らしい。主人公達のキャラもよく立っていました。出色の出来の小説でありました。









by rodolfo1 | 2020-04-09 02:33 | 小説 | Comments(0)
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