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川上弘美作「森へ行きましょう」を読みました。

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川上弘美作「森へ行きましょう」を読みました。

主人公、Rutsuは、1966年ひのえうまの年に生まれました。物語では、パラレルワールドに暮らす何人かのRutsuの人生が語られます。

母の雪子は留津を出産します。やや難産でした。しかし1歳になった留津の事を少し母親は疎ましく思っています。しかし留津は、友達の渡辺幸宏君と楽しく遊んでいました。弟の高志が生まれます。雪子と夫の清志はお互いの実家の事で諍います。夫にとって家族とは、自分の実家と雪子達の事でした。雪子は留津よりも高志を可愛がりました。

小学校に上がります。幸宏君とは相変わらず、一番の仲良しでした。6年生になった留津は学校で一人ぼっちでしたが、塾に通い始めて居心地が良くなりました。

留津は聖アグネス女子学園の1年生になりました。親友は木村巴でした。父母の仲は悪く、留津は両親の離婚を危惧していました。巴は上流のお嬢様で、もはや彼氏の岸田君とデートしていました。留津は、自分には幸宏君がいるのだと思いました。しかし巴も留津も、高校時代には恋愛はうまくいかなかったのでした。

留津は女子大に進学しました。巴と一緒にコンパに出掛け、酔った留津は、林昌樹に介抱されました。昌樹は所属している文芸部に留津を勧誘しました。八王子先輩が部を主導していました。留津は八王子に気に入られます。留津は自分も小説を書いてみようと思いました。題名は、「森へ行きましょう」でした。しかし、その小説の文芸部での評判はさんざんでした。

留津は昌樹に自分の事をどう思っているか聞いてみたくて仕方がありませんでした。ある日、初めて昌樹とキスをしました。しかし昌樹とはそれっきりでした。就職しましたが、誰も友達は出来ません。思い余って昌樹に電話しました。昌樹はアドバイスをくれ、留津は会社で漸く人心地がつきました。昌樹を旅行に誘いました。しかし旅行先で昌樹は留津にカミングアウトしました。彼はゲイだったのでした。留津の片思いは終了したのでした。

留津は神原俊郎と結婚する事になりました。神原家は、大金持ちでしたが、姑のタキ乃はものすごく押しつけがましい姑で、結婚式の段取りや、費用負担まで口をはさみました。しかも俊郎とはどうも身体の相性が悪い感じでした。神原家の家庭はぎくしゃくしています。姑のタキ乃と舅の美智郎は不仲で、美智郎には余所に女がいて、ろくろく帰宅しません。タキ乃は一人で女王然として暮らし、美智郎が帰宅すると留津宅に泊まるのでした。

また、タキ乃は恐ろしいくらい金を蕩尽しますが、留津へは倹約を強います。また。俊郎は、何かと言えば、僕が嫌いなのか?と聞いて留津の行動を制約します。しかし、留津は妊娠しました。虹子という女の子でした。留津は子育てに全く協力しない俊郎の機嫌を取るべく出来るだけ虹子を俊郎から引き離しました。そのせいで全く虹子は俊郎になつきませんでした。

タキ乃は次の子を急かします。しかし、俊郎は、性行為を虹子に目撃されてから、性行為を拒否していました。そして他所に女を作りました。ある日その女から電話がかかり、男の子を妊娠してから別れてくれと留津に言いました。思わず俊郎に抗議する留津でしたが、なんとなく俊郎とタキ乃に言いくるめられました。

舅の美智郎が脳梗塞で倒れて入院しました。小学5年生の虹子と共に見舞いに行きます。虹子はタキ乃の事を大王様という仇名で呼び、留津は吹き出しました。虹子はタキ乃の事を評して、大王様は不幸だ、夫に依存している癖に、夫からは省みられない。でもプライドは高くて、誰かに助けを求める事もできない。お金が好きになるしかないと言いました。それは私と同じか?と留津が聞くと、虹子は、きっとお母さんは別の道を選べば別の人になっただろうと言いました。もしかしたら、他の人間になったかもしれない自分について考える留津でした。

虹子は有名私立高校に入学し、文芸部に入りました。虹子と昔書いた小説の話をしているうちに、昔入っていた文芸部の八王子先輩が電話をかけて来ました。文芸部の仲間が亡くなり、その追悼文集を出すので留津にも協力してくれと言います。

留津は、俊郎との生活を振り返り、自分はしなくていい事ばかりして来たのではないかと反省します。しかし、ならば俊朗の方も、あまりにケツの穴が小さいのではないかとも思いました。なんと自分は可哀想なのだとも思いますし、なんと自分は間抜けだったのだろうとも思いました。それをノートに記載しながら、大笑いする留津でした。また森の中に迷い込んで出てこれなくなっていたのでした。

留津は時々八王子と文芸部の会合について電話で話します。この頃から、虹子が黙ってしまう事が増えました。留津と八王子の仲は次第に深まり、八王子は、自分の妻が浮気をしている事を留津に相談し、留津も自分の夫も浮気している、と告白しました。その時、東北大震災がやって来ます。ほうほうの体で帰宅した留津は、カレーを用意して待っていてくれた虹子の顔を見ながら、自分は何もしていない、まだ。と思いました。

留津は次第に文章を書く仕事を始めていました。八王子の勧めに従って、ミステリーを執筆し、八王子には酷評されましたが、あっさり本は出版され、なかなかの好評を博しました。八王子は留津から借金して、離れて行きました。。。。

別の世界ではルツも生まれました。安産でした。6歳まですくすく育ち、小学校に上がります。小学校にはずっと座って授業を聞かなければならないと言う決まりがある事に驚くルツでした。ルツはいろんなものに興味を持ち、すぐにふらふらとどこかに行ってしまう子供でした。11歳になり、次第に母親とはうまく行かなくなって来ましたが、反抗期だと片付けられました。

ルツは区立中学の1年生になりました。山田あかねが親友でした。あかねちゃんは同級生の林昌樹君が好きでした。しかし中学の卒業式の日、ルツは林君に告白されたのでした。ルツは都立高校に林君と一緒に進学し、次第に仲良くなりました。それがあかねちゃんにばれました。林君とは一回キスをしましたが、結局疎遠になり、あかねちゃんとも疎遠になったルツでした。

ルツは第一志望の大学の理学部に進学し、渡辺幸宏と知り会いました。ルツは理学部の実験に夢中になります。幸宏もそれに共感しました。しかし幸宏には別に彼女が出来ました。岸田耀でした。耀は派手な美人で、男をだめにする女と言われていました。幸宏はルツを耀と三人でライブに誘います。耀は以外にもごく普通の女の子で、ルツと友達になったのでした。

ルツは研究所の技官に就職しました。耀は幸宏と結婚式を挙げる予定で、結婚の前に一度ジュリアナ東京に行こうとルツを誘います。ルツはそこで再び林昌樹と再会しました。周りが次々と結婚していく中で、ルツはかたくなに独身を貫き、いつも昌樹とつるんでいました。

ルツは同じ研究室の田仲と不倫していました。しかし田仲は、妻子と別れるつもりは全くありませんでした。ルツは41歳になって、初めて子供を持ちたいと思い、田仲にその思いを伝えますが、すげなく拒否されました。そんな中、東北大震災が起こりました。ルツは、人は死ぬものなのだと言う事を学びました。ルツは田仲と別れました。母の雪子は癌になって手術し、父親は認知症を発症し、やがて2人は亡くなりました。

ルツに、製薬会社MRの神原俊郎が近づいて来ました。神原の家は複雑でした。浪費家の母親と、愛人の所に行きっきりの父親を持ち、父親の会社は倒産して、それでも浪費をやめない母親の為に、神原は収入のかなりの部分を差し出していました。その神原とルツは結婚しました。案の定生活は大変な物になったのでした。。。。

更に様々なRutsuが登場し、物語は様々に分岐して行きます。登場人物達は、みな森に誘い込まれ、それぞれに迷い込んで行きますが、それは決して無残な物ではありません。むしろ、豊穣な森の中に巡らされた様々な小道を通って、それぞれ豊かに結実して行くかに思われます。

留津にはファイル雑多と言う雑記帳があり、ルツにはなんでも帳と言うノートがあって、それぞれ雑多な感想を書き連ねますが、その書き込みがなんともおかしくて、笑いを誘います。川上先生流の軽みを持って、深刻なこの物語達はそれぞれの結末に向かって邁進するのでありました。









by rodolfo1 | 2020-05-06 02:05 | 小説 | Comments(0)
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