【第三部 承前】人類は天明からもたらされた3つのおとぎ話を抄読しました。第一の物語、王宮の新しい絵師は、物語のない国の話でした。王様には深水王子と氷砂王子、露姫の3人の子供がおりました。深水王子は子供の頃、饕餮の海にある墓島に行って2度と戻って来ませんでした。氷砂王子は冷酷な性格で、小動物を殺しては喜んでいました。王様は露姫に王位を継がせようとし、氷砂王子も同意しましたが、針穴という絵師を帯同し、祝福の為に王家の人々の絵を描かせると言いました。彼は名画家、空霊大絵師の一番弟子でした。 彼は伝説の地、ホーアルシンゲンモスケンの画材を使って絵を描くと言いました。針穴が描いた国王などの国の重鎮達は、描かれた瞬間に姿を消しました。絵に取り込まれたのでした。露姫の元に空霊大絵師が現れました。真っ黒な傘をくるくる回し続けながら彼が言うには、針穴に描かれた人物はみな絵に取り込まれてしまう、自分もこの魔法の傘を回していなければ、針穴の絵に取り込まれてしまうのだと言いました。空霊は、深水王子に会いに行き、彼を王宮に連れ帰って針穴を殺すしか解決方法は無いと言いました。 第二の物語、饕餮の海では露姫が近衛隊長達に守られて饕餮の海に向かいます。その海には饕餮魚が住み、船を食い破るので誰も墓島との行き来は出来ませんでした。しかし偶然ホーアルシンゲンモスケン産の石鹸の泡が、饕餮魚を鎮める事に気づき、安全に墓島に渡りました。 第三の物語、深水王子では、露姫がついに深水王子に出会います。彼は西欧風の遠近法では捉えられない存在でした。石鹸を使って王子は海を渡り、王宮に戻りました。氷砂は深水を針穴に描かせようとしましたが、遠近法で捉えられない深水を針穴は描けませんでした。氷砂は深水に倒され、深水は露姫を女王に据えようとしましたが、露姫は、近衛隊長と石鹸を使って海に船出し、2度と戻りませんでした。 人類は天明がこのおとぎ話に込めたメッセージを躍起になって解こうとしました。しかし作業は遅々として進みませんでした。更に人類には解くべき難問がありました。暗黒森林攻撃がもたらされた後に人類がどう生き延びるかでした。木星などの影に身を潜め、攻撃をやりすごす掩体計画等が立案されては取り消されました。。。 そんな中、程心とAAは、おとぎ話のあのお姫様の様に泡のお風呂に入りたいと思い、博物館に収蔵されていた往時の石鹸を天文学的な値段で手に入れ、風呂に紙のボートを浮かべ、その艇尾に石鹸を取り付けました。表面張力の力でボートは前進しました。それを見ていた程心とAAの頭に雷のようにひらめいたものは、曲率推進技術でした。それは宇宙船の光速移動を可能にするものでした。 更に程心は、傘のメタファーが意味する物を発見しました。遠心調速機でした。更に遠近法で捉えられない深水王子のメタファーが想起されました。光速でした。光速を低下させる、というアイディアをみなは思いつきました。そんな中、ホーアルシンゲンモスケンという名前の意味がもたらされました。ノルウェーにあるヘールゼッゲン山とモスケン島の事でした。程心達は当地に赴きました。そこは大渦巻が渦を巻き、船を飲み込む海域でした。程心達は船でその大渦巻に乗り入れました。通常のエンジンでは渦から脱出するのは不可能でした。全員はヘリで脱出しました。 渦巻のメタファーとは、低光速太陽系ブラックホールでした。これを作れば暗黒森林の観測者からは太陽系が消滅したように見えるはずでした。これが安全通知の答えでした。暗黒領域計画と名づけられました。ついに針孔絵師のメタファーだけは解けませんでした。しかし後に人類はその答えを知る事になるのでした。掩体計画、暗黒領域計画、そして光速宇宙船計画が送信紀元の人類にとって進むべきプロジェクトとなりました。 そんな中、太陽系早期警戒システムがアラートを発しました。光粒が発射されたと言うのでした。人類は我先に逃げようと宇宙空港に走り、宇宙船に乗ろうとして大パニックになりました。しかしアラートは誤報でした。実は光粒と勘違いされたのは、三体艦隊が曲率推進飛行を行った事による痕跡でした。この痕跡が暗黒森林の観測者に発見されれば、太陽系の座標が明らかになってしまうのでした。人類は、曲率推進飛行の開発を禁止しました。 程心は掩体計画実験のボランティアとして実験に立ち会いました。するとそこにあのウェイドが現れました。減刑されて出獄していました。そして光速船こそが自分の理想で堂々とした人間精神の為に必要だと言う程心に、お前の会社である星環グループ、財産、権力、地位をすべて自分に寄越せば、程心が欲しがっている光速船を作ってやると持ち掛け、AAもウェイドの言う事を聞けと助言し、程心はウェイドに彼女のすべてを任せました。ウェイドは程心に冬眠に入って自分の事業への影響をなくせと言い、程心は計画が完成する前に、計画が人類に脅威である可能性が出てきたら、自分を起こし、すべてを自分に戻せと要求し、ウェイドは要求を呑みました。 【第四部】掩体紀元11年、掩体世界で程心は目覚めました。ウェイドの迎えが程心を待っていました。そこは木星の裏側でした。程心は星環シティを訪れました。この星域ではかつて光速の低下実験が行われており、その研究の中心はマイクロブラックホールでした。建造された環太陽加速器は、マイクロブラックホールを沢山作り出しました。人々は木星の惑星レダにブラックホールを集め、ブラックホールはレダを飲み込んで安定しました。これを中心として建設された宇宙都市が、ブラックホールの収納容器とも言えるライトスピードⅡでした。 程心達が星環シティに向かうと、都市は太陽系艦隊によって包囲されていました。実はウェイドが武装して立てこもっていたのでした。密かに光速船の研究開発を続けていた彼は、突然光速船開発を明らかにし、連邦政府と衝突しました。程心達は包囲をくぐり、ウェイドに面会しました。ウェイドは実験装置に程心の髪の毛を入れ、曲率ドライブで2㎝移動させました。50年以内に光速船を作る、と言いました。 しかも自分達は連邦艦隊と対峙する武器を持っていると言い、西暦時代のライフルを装備した軍隊を見せました。実はそのライフルに込められていた弾丸は、環太陽加速器で作った反物質で出来ており、一発命中すれば、戦艦が吹っ飛ぶのでした。同様の兵士を他の宇宙都市にも潜入させているとも言いました。程心はあの時の約束を守れとウェイドに言い、武装解除と降伏を命じました。ウェイドは約束を守り、星環シティを連邦政府に引き渡しました。ウェイドは死刑になりました。程心とAAは、再び冬眠しました。期限は100年、もしも暗黒森林攻撃が発生した場合には蘇生する条件でした。 【第五部】掩体紀元67年、天の川銀河で1人の歌い手が仕事に励んでいました。送られてきたデータを調べるのが彼の仕事でした。彼は三恒星世界を発見しましたが、既に浄化されていました。しかし彼らの通信記録を調べ、太陽弾き、と名付けた隠されている恒星を発見しました。歌い手は双対箔という武器を取り出して、その恒星に投げました。危険な武器の使用をあっさり許可され、不審がる歌い手でしたが、実は母世界は既に2次元化の準備に入っているのだと長老から聞かされたのでした。。。 程心とAAは冬眠から目覚めました。そこは宇宙船星環の船内でした。暗黒森林攻撃アラートが出されていました。光粒はどこにいるのかと程心は尋ね、光粒ではないと答えられました。それはたった一枚の紙でした。どこかの宇宙船が何かを太陽にめがけて発射しました。当初光速であったそれは、次第に減速しました。2隻の宇宙船が捕獲に向かい、目視しました。クレジットカードくらいの大きさの紙でした。しかし掴もうとしても腕をすりぬけてしまいました。 無人機で押してみると神は無人機の中に入り、そのまま出て来ました。不吉な悪夢から目覚めた担当科学者は、紙を宇宙に捨てるよう命じました。しかし恐るべき事が起こり始めました。船が平面になり始めたのでした。逃げようとしましたが、宇宙船は全く進みません。あの紙は三次元空間を二次元空間へ崩潰させる武器だったのでした。脱出するには光速が必要でした。ついに雲天明が残した針孔絵師の絵の秘密が明かされたのでした。二次元空間はどんどん広がって行きました。。。 絶望した程心達は地球に戻ろうとしました。しかし連邦政府は2人に、冥王星にある地球文明博物館へ行き、文化財が単体で二次元化されるように宇宙空間にばらまいてくれと頼みました。しかもあの羅輯がそこにいて、程心に会いたがっていると言うのでした。現れた羅輯は200歳になっていました。博物館の情報は1億年保存される事になっており、情報はすべて石に彫られていました。程心達はゴッホやダヴィンチの絵を宇宙空間にばらまきました。太陽系は次々と二次元化されて行きました。 羅輯は自分は残るが2人は逃げろと言いました。2人は星環で出発しました。羅輯はその船で2人はどこへでも行ける、星環は光速航行できるのだと言いました。ウェイドの残党が密かに完成させていたのでした。冥王星に戻れと程心は星環AIに命じますが、最高位命令権は羅輯にあり、羅輯だけが冥王星に向かう権限を持っている、とAIは答えました。ついに程心は自分の誤りに気づきました。天明の示した解決策の正解は光速船でした。しかもウェイドを止めた事で、更に事態を悪化させたのでした。羅輯は最後に、彼らを探しに行け、と言いました。どこへ行くのかと星環AIが尋ね、天明の所へ行こう、とAAは言いました。恒星DX3906を目指せ、と程心は命令しました。 【第六部】道中さまざまにAAが程心を慰めますが、程心の望みは、天明に再会してすべてを聞いてもらう事だけでした。恒星までは船内時間で52時間で着く、とAIが言いました。恒星DX3906には2つの惑星がありました。1つは大気の無い灰色惑星で、1つは酸素を含む大気と水を持つ青色惑星でした。1人の男が2人を出迎えました。あの万有引力に乗り組んでいた民間研究員の関一帆でした。ここには4つの世界がある、と一帆は言いました。星環からの重力波通信を検知して自分だけ残って待っていたと言いました。 一帆の宇宙船が、警告を発しました。どこかの宇宙船が灰色惑星に着陸し、すぐに飛び立ったと言いました。天明かも知れないと思った程心は一帆と灰色惑星に赴きました。実は世界Ⅲは、自らの座標が明かされたと考えた住民たちによって作られた低光速ブラックホールになっていました。誰もそこから出たものはいませんでした。中の様子は不明だが、きっと住民は幸せに暮らしているだろうと一帆は言いました。 この異世界人類が交錯する星域では悲惨な戦争が起こったのだと一帆は言いました。超文明を持つ異世界人の最大の武器は空間次元で、最大の防御は光速の遅延でした。いつ二次元化が終わるのかと程心は尋ね、永遠に終わらないと一帆は答えました。その攻撃を回避するには、自らを低次元化するしかないのだと一帆は言いました。やがては全宇宙が焼け野原になるだろうとも一帆は言いました。おそらく楽園時代の宇宙は十次元に及び、もっと人民は優雅に暮らしていただろうとも言いました。 到達した灰色惑星には、曲率推進の航跡、デスラインが残されていただけでした。完全な無重力のブラックホールでした。こうした航跡は再出発者達の仕業だと一帆は言いました。彼らは、宇宙をゼロ次元にリセットして楽園に戻す事を願っていました。最新の宇宙論では、宇宙の膨張はやがて止まり、自身の重力によって収縮に転じる、最後は重力崩壊を起こして特異点になり、再びビッグバンが起こって万物はゼロに帰り、新しい宇宙が始まるのだと言いました。 青色惑星に戻るとAAが慌てて連絡して来ました。雲天明が現れたと言うのでした。しかもすごいプレゼントを持って来たと言いました。着陸する際に2人は時間真空に襲われました。あのデスラインが乱れ、ラインが広がって全整形に広がり、その中に捉われたのでした。2人は光速で青色惑星の軌道を周回していました。しかも光速が減速しており、全てのコンピューターは使用不能でした。 一帆は低光速でも動くニューラルコンピューターを起動しました。しかし宇宙船の中で時間は通常の一千万倍の速さで流れていたのでした。コンピューターが再起動するまで12日かかりました。その間2人は冬眠してやり過ごしました。再び目覚める前に、一帆は、執剣者としての程心は何も間違った事をしなかったと断言しました。2人は無事に蘇生しました。 DX3906星系は、低光速ブラックホールと化し、いわゆる光墓になっていました。星環も天明の宇宙船も見当たりませんでした。1890万年が経過していたのでした。きっとAAは岩に字を刻んで自分に残していると程心は言い、ついに程心はその痕跡を発見しました。しかし岩は地殻変動で割れており、刻まれた文章には、私たちはともに幸福な人生を生きた、とありました。。。その時2人は妙な物を目にしました。それは天明からの贈り物でした。その贈り物とは。。。そこに現れた驚きの人物とは。。。 ついに大宇宙からの大規模通信が感知されました、三体語も地球語も含まれていました。その通信が伝えたものは。。。。 三体物語の冒頭、文化大革命に絶望した葉文潔が、三体世界に地球の座標を送信した事から始まった三体世界と地球との攻防は、ついに超大規模な宇宙戦争から宇宙の滅亡へと話が進みます。なんという壮大なスペースオペラでしょうか。三巻すべてに起承転結が仕掛けられており、全巻楽しめる名作だったと思いました。
by rodolfo1
| 2021-06-12 02:05
| 小説
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