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近藤史恵作「インフルエンス」を読みました。

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近藤史恵作「インフルエンス」を読みました。

【一】小説家である私が出版社からの手紙を受け取ったのは12月の半ばでした。読者、友梨からの手紙で、自分達3人の30年間に渡る関係は、きっと作家の興味を引くだろうとありました。そして、実は1人にすい臓がんが見つかった、彼女が亡くなった後は、彼女が訂正できないのでもう話せないともありました。小説家は彼女に会いに行きました。3人と小説家は同い年でした。

友梨は、総合団地に生まれ育ちました。他に多くの子供が住んでいました。一番仲が良かったのは里子でした。お互いの家を行き来しますが、里子の祖父は友梨を邪険に扱い、里子も委縮していました。自然友梨の家で遊ぶようになりました。しかしある時、友梨の祖父が訪問し、たまたま遊びに来ていた里子は祖父に、自分のママは、女の子はおじいちゃんと一緒に寝るんだと言ってたよ、と話し、その意味を察した祖父は、友梨の父母に、里子の家にクレームしろと主張しますが、父母は黙殺しました。

しかし母親は以後里子を歓迎せず、自然2人の間には距離が出来ました。以後2年間で里子は変わってしまい、派手なグループと付き合って、地味なグループに所属する友梨とは距離を置きました。しかしある日里子は友梨を団地の屋上に誘い、自分の祖父との関係を誰かに言ったら殺す、と脅迫したのでした。その時友梨は、里子の祖父と里子の関係を理解し、自分が見て見ぬふりをして里子を迫害する側に回った事を自覚したのでした。友梨達は、中学に進学しました。

団地に真帆が引っ越してきました。東京の大きい家で暮らしていたという彼女は東京弁をしゃべり、垢抜けた容姿の美少女でした。父母が離婚して実家に帰って来たのでした。しかし漫画をきっかけに友梨は真帆と仲良くなりました。それを里子がじっと見つめていました。。。

【二】中学は小学校に比べれば、暴風雨のような所でした。友梨は相変わらず地味なグループに所属し、同級生の障害児とも交流しました。言語障害のアリサとダウン症の理菜子でした。アリサはいつも理菜子の面倒を見ていました。アリサ達は同級生に虐められていました。友梨は真帆とも仲良くしていましたが、彼女はクラスで孤立していました。全くその事に気が付かなかった自分を友梨は責めました。

次第にクラスが荒れて来ました。煙草を吸い、喧嘩をし、教師に逆らいます。細尾が最も態度が悪く、身内にヤクザがいると噂されていました。細尾は里子と付き合っていました。ある日、クラスが静まり返りました。里子が見ている前で細尾達が理菜子を殴り殺したのでした。細尾達は少年院に送られ、学校には強面の教師が着任して当たり前に体罰を下し、学校は鎮静しました。里子は完全に孤立し、不登校になりました。また里子を救えなかった友梨でした。今や友梨の友達は真帆だけでした。

真帆が家で一緒に宿題をし、遅くなったので友梨が送っていきました。途中で別れた友梨でしたが、真帆をつけていく車に気づき、追いかけると、包丁を突き付けていた男が真帆を車に引きずり込もうとしていました。思わず友梨は男に体当たりし、男に反撃されますが、手に触れた包丁で男を刺しました。正当防衛だから逃げようと真帆は言い、2人は別々の方向に逃げ出しました。翌日母親は、男が殺され、犯人として里子が警察に連れていかれたと言いました。そういえば犯行現場は里子の家の前でした。

【三】友梨は熱発し、5日たって陰鬱な気持ちで登校しました。授業が終わって真帆が一緒に帰ろうと誘いました。何故里子は自分達を庇うのだと真帆が訊ね、昔は仲が良かったのだと友梨は言いました。自首しようかと友梨は言いましたが、真帆に制止されました。真帆の家で事件について語っていると真帆の母親が帰宅し、友梨のよう子と付き合うのはやめろと真帆に言いました。里子と友梨が友達だった事を団地の住民に聞いたのでした。しかし真帆とも決裂しました。里子が少年院から帰って来たのでした。

里子は友梨に粘着しました。何故里子が逮捕されたのかと聞くと、友梨を守る為だと言いました。そして友梨は真帆を守ったのに、里子の事は守らなかったと非難し、謝る友梨に、祖父を殺して自分を助けろと言いました。自分がアリバイを作る間に部屋に入って祖父を窓から投げ落とせと言いました。。。

【四】友梨は高校に進学し、孤立していました。里子としか話しませんでしたが、その里子とも大っぴらには付き合えませんでした。夏休みに入り、ついに決行する日が来ました。里子は何もかも終わったら2人で遊牧民になって羊を追って暮らそうと友梨に言いました。気づけば友梨と里子は世界に2人きりでした。

突然真帆が現れ、里子の祖父を殺すのは本当か?と聞きました。里子が真帆に連絡し、友梨が逃げたらあの男を刺したのは友梨だと証言しろと言ったのでした。脅されて言いなりになるのかと言った真帆に友梨は、里子が祖父を憎む理由を打ち明けました。真帆は決行の期日も知っていました。里子が真帆に、友梨のアリバイ工作を頼んだのでした。当日里子の家に行くと、驚くべき光景を見ました。。。

【五】話を聞きながら小説家は違和感を覚えました。彼女が語る状況や風景に覚えがあったのでした。驚いたことに小説家はアリサの事を覚えていました。実は同級生だったのでした。その後真帆は東京に引っ越し、里子も引っ越しました。友梨は大学に進学し、意外な事に友達ができました。みんなと夏休みにディズニーランドで遊びました。何とそこで里子と細尾に出会いました。

気分が悪くなった友梨は1人でホテルに残りましたが、ロビーに出ると里子が待っていました。祖父をやってくれて感謝していると里子は言い、祖父は自分で落ちたのだと友梨は打ち明けました。大阪に戻ると、真帆から電話がありました。どうして里子にしゃべったのかと友梨を非難しました。おそらく里子に鎌をかけられたのでした。自分が落としてきた制服のボタンを里子が持っている、自分は脅される、と言い、里子が脅迫したら里子を殺せと真帆は友梨に言いました。

【六】しかしその後真帆から連絡は10年以上も絶たれました。友梨は大型書店に就職し、日本全国を飛び回りました。任地の大阪で初めての彼氏が出来ました。しかし彼とはそりが合わず、別れました。次の任地は東京になり、久しぶりに真帆が連絡して来ました。夫のDVに悩んでいると言いました。子供を連れて現れた真帆は、あの時は助けてくれてありがとうと感謝し、里子に対して嫉妬していたと言いました。そして夫を殺してくれと言いました。眠剤を酒に入れておくから合い鍵で入って来て包丁で刺し殺せと言いました。無事に事が済んだら、3人でどこかに行こうと真帆は言いました。ついに決行の日、友梨は。。。

【七】久しぶりに大阪に戻ると、母親が真帆の母親に会ったと言いました。未だに真帆は独身だと言いました。。。あわててあのアパートに戻ると、もう誰も住んでいませんでした。近所の人は、殺されたヤクザだけが居座っていたが、死んだ為にアパートは取り壊されると言いました。ある日、警察官夏目が友梨を訪れました。真帆と最後に会ったのはいつかと尋ねられ、高校以来連絡していないと答えました。真帆には殺人の嫌疑がかかっていました。

それから夏目が度々書店を訪れました。彼とデートするようになった友梨でした。ぼつぼつと夏目は真帆の事情を打ち明けました。真帆が相続した古いアパートに元ヤクザが居座ってトラブルになった末に殺されたのだと言いました。

【八】友梨は昔の同級生に会いに行き、里子と細尾が結婚していた事を知りました。しかも同級生は細尾が殺されたと言いました。友梨の母親は里子の実家の住所を調べて来てくれました。夏目は、細尾は里子にDVを働いていたと言いました。真帆が里子とつながっていたのだとしたら、この殺人は里子の祖父の事件の焼き直しなのだと友梨は思いました。

友梨は里子の実家を訪ねました。そこには里子が子供を連れて帰ってきていました。その子供はあの時真帆が連れていた子供でした。。。里子はいろいろ真帆に世話になっていると言いました。小説家の母親が中学の卒業アルバムを持って現れ、それを見た小説家は驚愕の事実を発見しました。

【九】友梨は警察に自首しました。しかし詳しく話を聞かれ、供述調書にサインして帰されました。里子から聞いた真帆の電話に電話し、自首した、と言いました。絶句した真帆は自分の名前を警察に言えと言いましたが、それでは真帆は里子を守れないと友梨は言いました。友梨は真帆と里子の関係に気づいていたのでした。思えば3人はいつもお互いの役割を交換し続けていました。そういう事はこれでもう終わりにするつもりの友梨でした。。。

1980年代の半ば、全国の公立中学校は校内暴力の嵐が吹き荒れていました。教師の体罰と生徒の暴力はほとんど黙認状態でした。そんな中で中学生活を送っていた3人の少女が、15年の時を経て、連環殺人を引き起こすというのが本小説のプロットです。加害者と被害者が相半ばする環境に多感な少女達は影響され、葛藤を続けながらも団結して前に進んで行きます。近藤小説にしては重いテーマを練達の筆で彩った名作だと思いました。



by rodolfo1 | 2021-07-14 02:59 | 小説 | Comments(0)
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