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島本理生作「ファーストラヴ」を読みました。

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本年度直木賞受賞作、島本理生の「ファーストラヴ」を読みました。主人公は、
臨床心理士の真壁由紀です。彼女は、聖山環奈の事件を書籍化しようとしていま
す。

環奈の事件とは、アナウンサー志望であった彼女が、二次面接の直後に父親を刺
殺し、夕方の多摩川沿いを血まみれで歩いていた、というものでした。しかも彼
女は、逮捕された後こう言ったといいます。「動機はそちらで見つけて下さい」
と。

由紀は夫の我聞と子供の正親と三人で幸せに暮らしています。夫の弟、迦葉は弁
護士として、環奈の事件を担当していますが、彼と由紀は大学の同期生でした。
迦葉は由紀に相談がある、と言います。由紀の本の事を聞きつけたのです。

ところで迦葉と由紀の間には何かしらわだかまりが存在します。実は二人は元々
由紀が我聞と知り合う前からの知り合いで、ついにうまくいかなかったカップル
だったのです。ぎくしゃくとしながらも二人は環奈の事件を掘り下げて行きま
す。

面会で出会った環奈は、事件については全くの他人事のようです。実は自分は嘘
つきであって、父親を刺した事もあまり覚えていない、と言います。最初の面会
は全く取りつく島がありませんでした。

ところで迦葉の生い立ちは複雑です。もともと我聞の従兄弟にあたりますが、両
親が離婚し、我聞の家に引き取られて来ています。しかも母親に深い葛藤を抱え
ています。何故由紀とうまくいかなかったのか、という点も、後に由紀によって
説明されます。このくだりは大変劇的に描かれます。

環奈は、由紀に手紙を書き、自分は頭がおかしいので、治して欲しい、と依頼し
て来ます。しかも彼女の母親は、検察側の証人に立つ、と言います。娘とは対立
する立場です。そこに何かが隠されている、と由紀達は考えます。

ところで、由紀は由紀で両親との軋轢を抱えています。彼女の父親は、昔東南ア
ジアで子供を買春しており、その事で母親に責められます。しかし問題はそれだ
けに留まりませんでした。由紀に深いトラウマを与えています。

由紀達は調査を続け、環奈の両親が、いかに環奈に虐待を働いていたかを明らか
にしていきます。ついに環奈は、自分のトラウマに気づき、自分を守る努力を始
めます。

日本のミステリで臨床心理士が主人公であるものは大変珍しいと思います。海外
のミステリではしばしばこの問題が重きを占めますが、この点大変読みごたえが
あったと思いました。最後の法廷の場面はあまりに環奈が理路整然としていて、
やや真実味を欠くきらいがあったと思いましたが、日本人作家の作品としては出
色の出来でありましょう。直木賞は納得の受賞だろうと思いました。



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by rodolfo1 | 2018-08-09 02:30 | 小説 | Comments(0)

西加奈子作「おまじない」を読みました。

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西先生の新刊は短編集でありました。西先生のコアなファンである私は、最近の
すべての新刊小説には目を通しています。結果、西先生の作品とは、ごってりし
た関西弁で語られる巧みな物語とともに、市井の市民がふと懐をくつろげると冷
たい刃がそこに見えるような、怖い怖い一面を秘めた物語が持ち味だと思ってい
ます。

このところの作品では、そうした怖い小説が影をひそめていたのですが、この短
編集では、そうした怖い一面がかなり復活しております。小説は、8編の短編か
ら成っており、それぞれに西先生オリジナルの挿絵がそえられています。物語の
テーマのひとつは、この帯の言葉、「あなたを救ってくれる言葉がこの世界にあ
りますように」です。

第一編、燃やす。母親は、主人公に中性的な生き方を常に求めます。それに対し
ておばあちゃんは、女性的なものを孫に求めます。おばあちゃんは病気で入院し
ます。それを慰めようと主人公は、女性的な格好をし、おばあちゃんに喜ばれた
上に、大変美しく成長したのですが、とある変質者によって。。。母の期待に添
えなかった、と自覚する娘は、焼却炉でものを美しく燃やす用務員さんにある言
葉をもらいます。

第二編、いちご。浮ちゃんはひたすらいちごを育てています。浮ちゃんは主人公
の親戚です。浮ちゃんにとっていちごに仇なすものは仇敵です。でっかいカタツ
ムリを踏みつぶして主人公たちのトラウマにしたりします。主人公は美しく育ち
、東京でモデルになります。それなりに売れたのですが、頭打ちします。葬式の
ために帰省した主人公は、浮ちゃんに再会し。。。。

第三編、孫係。おじいちゃまは長野から出てきて、主人公と東京で同居を始めま
す。ファザコン気味の母親は、必死でおじいちゃまをもてなすのですが、孫娘は
疲れ果てて、つい本音をもらします。そこをおじいちゃまに聞きつけられて、意
外なおじいちゃまの本音が飛び出し。。。。

第四編、あねご。これが本作ではいっち好みでした。主人公は、酒ばかり飲んで
います。飲みっぷりが良いのでみんなからあねごと呼ばれており、その道を極め
るべくキャバクラに就職します。その店に有名タレントが現れ、宴会に呼んだ一
人の売れない芸人と出会い。。。。実によろしかった。西先生の怖い模写が鋭く
発揮されていました。

第五編、オーロラ。主人公とダンサーのトーラは、休暇でアラスカに向かいま
す。トーラは「心がない場所」を目指しています。同性愛の恋人であったらし
い二人は、アラスカでオーロラを見ようと試み、現地の男性に、怖い一言を言
われ、彼女たちの次の運命を予感します。

第六編、マタニティ。主人公は小説の冒頭、念願の妊娠を果たします。母の性
質を受け継ぎ、ネガティブ思考の主人公は、妊娠についてネットで検索し、嫌
気がさします。ある時、テレビでかつてスターサッカー選手であり、覚醒剤に
手を出してすっかりおちぶれていたタレントを見ます。彼の口から出たその言
葉とは。。。。

第七編、ドブロブニク。主人公は幼少時から映画に夢中になり、次に演劇にの
めりこみます。小劇団を立ち上げた後に、天才演出家と出会い、劇団は発展し
ます。44歳になった主人公は、劇団の主要人物ですが、演出家にややうとま
れ、休暇を取るようすすめられ、ヘルシンキに旅行します。そこで自主制作映
画のチケットを買い、制作者にある言葉をかけ、制作者はその日本語を彼女に
返します。それが彼女にとって。。。。

第八編、ドラゴン・スープレックス。主人公は、黒人とのハーフの日本人です
。ばりばりの関西弁の彼女は、ひいおばあちゃんに育てられています。ひいお
ばあちゃんは信心深い人で、いろんなおまじないを日常使い、それについて、
近所の人々に頼られる存在でした。お母さんは、彼氏がジャマイカ人です。
ジャンクフードをこよなく愛し、母親である左派論客の有名人なおばあちゃん
とは敵対しています。

しかし、ひいおばあちゃんは亡くなり、母親と暮らすようになった主人公は、
ほとんどのおまじないグッズを捨てられ、ひいおばあちゃんの面影をどんどん
失って行きます。そこに、ひいおばあちゃんの家によく出入りしていたおっさ
んが現れます。プロレスフリークな彼は母親とその彼氏とも大変仲良く暮ら
し、主人公に、ステキな言葉を与えます。ラストシーンは大変心温まるもので
した。

いやいや、大変素晴しかった。ここしばらくは、やや停滞しておられた西先生
でしたが、再びの面目躍如の作品だったと思います。今後もがんばっていただ
きたいと思います。でも電子書籍だけはできれば発行していただきたいと思い
ました。







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by rodolfo1 | 2018-08-06 02:00 | 小説 | Comments(0)

押川剛作「子供を殺してください」と言う親たち、を読みました。

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第一章。まずはさまざまな筆者の経験した事例が語られます。
冒頭で紹介されるのが、佐世保の事件。犯行当時15才であった少女が、同級生
を殺害し、死体損壊まで行なっていた事件です。意外な事に、この犯人は、精
神科医師、カウンセラー、児相など複数の支援を受けていたにも関わらず事件
は起こってしまいました。

筆者は精神障害者移送サービス事業を行なっています。大抵の場合、家族はこう
した精神病患者を持て余し、本来ならば精神科医が関与するような患者であって
も、本人の病識の無さや、本人の暴力性に阻まれ、精神科医の支援を受けられな
い状況にある事が多いです。筆者はこのような事例に対して、既に千例に余る移
送サービスを提供しています。

まず、精神病患者の入院には、任意入院と、医療保護入院、措置入院がある事が
語られます。更に精神病の病名の整理に続いて、筆者の経験した何ともやるせな
い様々な事例が語られます。病む本人と、必ずしも理想的な対応をするとは限ら
ない家族。しばしば警察が介入しますが、肝心かなめの精神科医は必ずしも機能
しません。

第二章、第一章で紹介された事例が大まかにまとめられます。ほとんどの家族は
医療機関や保健所、警察署などに相談に行きながら問題解決できません。結果と
して家族は加害者本人の言いなりになっています。こうした加害者の多くは、パ
ーソナリティ障害を患っています。従って薬物があまり効果を上げません。また
加害者の根底には幼児期からの原因が隠されています。家族はもはや、殺すか殺
されるか、というところまで追い詰められています。

第三章。しばしば加害者は、専門機関や専門家が対応しないグレーゾーンにいま
す。精神病院も近年は入院期間を三か月程度に区切り、それ以上の入院を拒否す
る状況です。治療効果が上らず退院しても彼らには行き場所がありません。現在
こうしたトラブルのしわ寄せは一手に警察が引き受けています。しかし警察には
介入するべき場合は法に抵触する事件や事故だけだという事情があります。

第四章。精神保健福祉法の改訂が話題になります。この改訂により、家族にとっ
ても加害者にとってもますます行きどころが制限されている実状が語られます。

第五章。筆者は、日本にスペシャリスト集団を作ることを提言します。公益財団
法人を作って先に述べたグレーゾーンの対象者を救済すべきとしています。

第六章。家族の行うべき取り組みについて語られます。対象者の家族にとって、
対象者の問題解決への努力は大変重要です。しかしその家族自体にしばしば問題
があることがあります。子供を殺してください、という前に、どのような行動を
取るべきか?そしてどうしても解決できなかった場合、どのように援助を受ける
かについてが記載されます。

大変今日的な話題であったと思いました。問題行動を起こす人物がこれから増加
すること、そして何故そうなのかがよくわかりました。我々も備えなければ、み
すみす被害者になってしまうことも想定されるのです。大変啓発的な著作であっ
たと思いました。






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by rodolfo1 | 2018-08-02 02:33 | 小説 | Comments(0)

柚月裕子作「最後の証人・佐方貞人シリーズ」を読みました。

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柚月裕子作「最後の証人・佐方貞人シリーズ」を読みました。これは久々に当た
りのミステリでありました。

冒頭は、事件から始まります。ナイフを持った女と男が対峙する場面です。緊迫
感が大変高いです。

場面は反転して、主人公、佐方貞人が登場します。彼は辞め検の弁護士です。開
廷一時間前ですが、まだ二日酔いです。事務員の小坂にどやされています。

事件は誰が見ても結論のわかり切った事件でした。被害者はナイフで刺されて絶
命しています。担当検事に何故こんな安易な事件を担当するのかと質問されます
が、佐方は答えません。佐方は元は敏腕検事でした。ある事件をきっかけに辞任
し、弁護士をしていますが、辞任した理由も熱いものでした。弁護士仕事も並み
の事件は受けません。これは、と言う事件しか担当しないのです。その佐方が何
故この事件に拘るのか、担当検事はその理由がわからず、一抹の不安を隠せませ
ん。

場面は再び転回します。医師の高瀬は、妻の美津子と交通事故で亡くした小学校
五年生の一人息子を悼んでいます。目撃者である同級生は、運転手が酔っていて
信号を無視したのだと証言しますが、裁判の結果、息子の過失と断定され、容疑
者は不起訴になりました。納得行かない高瀬は警察に怒鳴り込みますが、担当刑
事にあっさりいなされてしまいます。

裁判では高瀬夫妻の仲が、美津子の浮気の為に険悪であったと証言されます。浮
気の相手は、陶芸教室で知り合った島津であると思われました。ところで美津子
は胸腺癌を患い、余命いくばくもありません。それを知った美津子は、子供の復
讐を行う、と高瀬に宣言しています。

実は、息子を轢き殺したのはその島津だったのです。高瀬は島津の後をつけてい
くうちに、島津が元は公安委員長をしており、その伝手で事件を揉み消した旨を
告白するところを聞いてしまったのです。美津子はそう言う理由で島津に近づい
て行きます。彼女と島津は待ち合わせ、冒頭の場面のホテルに投宿するのです。

裁判は圧倒的に検事側有利に進みます。一方佐方は、ひたすらある証人の出廷を
待ち望んでいます。その証人とは一体誰か?裁判の行方は驚くべき方向へと舵を
切っていき、驚きの真実が明かされます。

いやいや。流石に名作、孤狼の血を物された作家さんです。驚愕のミステリでし
た。大変結構でした。



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by rodolfo1 | 2018-07-31 02:54 | 小説 | Comments(0)

垣谷美雨作「ニュータウンは黄昏れて」を読みました。

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いやいや。題名もパッとしませんし、作者も全く無名の方です。連れのおすすめ
に従って読んだのですが、これは驚きの名作でした。

織部頼子は、バブル崩壊前に無理して買ったニュータウンの分譲マンションで暮
らしています。多額のローンを抱え、節約生活に奮闘する彼女でしたが、折しも
マンションは老朽化し、大規模補修か建て替えかで住民は紛糾しています。

一方娘の琴里は27歳のフリーター。バイト暮らしをしながら専業主婦を夢見てい
ますが、かつての同級生、三起子にイケメン資産家の彼を紹介され、何故か彼と
付き合う羽目に陥ります。ところが彼は実は一種のストーカーで、三起子はそれ
を嫌って失踪してしまいます。

最初は資産家の彼に、奨学金を払ってもらったり、家のローンも支払うと言う彼
の申し出に乗り気であった琴里でしたが、次第に彼に束縛されるようになり、別
れを考え出します。

頼子は、マンションの理事に就任させられます。マンションは不動産会社の強い
営業もあり、次第に建て替えへと舵を切り始めるのでしたが、突然全ての不動産
会社から手を引かれてしまいます。部屋を増築して建て替えたとしても、新しい
部屋が売れる見込みが立たない、と言うのです。なにせそこはニュータウン。駅
から遠くエレベーターも無い物件でしたから。それでもマンションの資産価値の
高騰を狙う住民は、強引に建て替えしようと画策します。

あくまで反対する住民の先鋒は同じ理事の雪子でした。その雪子に対して、折し
も上京して同居していた頼子の母、与志江が自分の経験談を伝えます。知り合い
の建て替え反対派住民は、他の住民から訴訟を起こされて、自宅マンションを建
て替え前の時価で買い取られ、マンションを追い出された、と言うのです。しか
も建て替えが遅れたために発生した損害を賠償請求までされたと言います。それ
を聞いて雪子は一旦引き下がります。

資産家の彼についに別れを告げた琴里でしたが、案の定ものすごい粘着を受けま
す。幼馴染から三起子と資産家の彼に何があったかを聞き出し、今まで彼が負担
した借金やデート代を返還させられることになるとわかった琴里は、祖母の与志
江に事情を話し、彼に金を返します。しかし彼の粘着は止みません。とうとう琴
里は、幼馴染で独身の朋美を彼に紹介し、自分の後釜に据え、自分は逃れる事を
考えます。

ところがここからが垣谷先生が従来の作家さんとは違う所です。朋美の家には引
きこもりの弟がおり、家庭は崩壊状態でした。結婚生活に何の執着もなく、また
頭脳明晰なともみはあっさりストーカー男の本質を見抜いてしまいます。その上
で、彼の資産状況を調査した朋美は万人の驚愕する行動に出ます。そして何年か
が過ぎ、結婚して八百屋をやっていた琴里の元に驚きの知らせがもたらされます。

中々このようなテーマからハッピーエンドに至る作品が出来る事は考えづらいの
ですが、垣谷先生はちゃんとそれを達成されています。また、先生ご自身が多摩
ニュータウンにお住まいだった経験から、老朽マンション問題に対して大した蘊
蓄をお持ちで、それがこの作品に厚みを与えています。世の中にはまだまだ隠れ
た面白い本があるものです。世の中は広いものだと実感させられました。


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by rodolfo1 | 2018-07-27 02:38 | 小説 | Comments(0)

吉田修一作「ウォーターゲーム」を読みました。

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吉田修一作「ウォーターゲーム」を読みました。読んで驚きましたが、今回の作
品は従来の純文学形式ではなく、サスペンス&ミステリ仕立てとなっています。

冒頭の舞台は、なんということのない日本の山奥の飯場です。若宮真司はダム工
事の現場で働いていたのですが、社長に連れ出され、金を持って二人で逃げよう
と誘われます。その証拠に面白い物を見せる、と言われ、ついていくと、なんと
工事中のダムが爆破されてしまいます。

この大惨事を引き起こしたのは、外国の水商社、V・O・エキュ社と、結託する日
本の政治家、中尊寺達でした。テロの標的となった日本の水資源を民営化し、乗
っ取る為です。その企みに関わるのが、産業スパイ組織のAN通信。日本に潜入し
ていたのがエージェントの鷹野と田岡でした。ところが話は微妙に入り組んでい
ました。本来このテロは中止される筈だったのに起こってしまったと言うので
す。鷹野は、V・O・エキュ社の内部で分裂する勢力を追求し始めます。

その分裂した勢力とはシンガポール国籍のリー・ヨンソンという男でした。その
事を、鷹野は中尊寺から告げられます。計画の当初、鷹野と行動していた一匹狼
の女スパイアヤコは、鷹野とは離れ、リー・ヨンソンに会いに行きます。招待を
受けたのです。リーは、AN通信の情報を調べ、自分に漏らすようアヤコに依頼し
ます。リーはもっと大きな勢力の代表で、水利権の仕事を独占しようと企んでい
るのです。

九州新聞の女記者、九条はダム爆破に真司が咬んでいる事のではないかと疑い、
真司の行方を追っています。真司の周辺の情報から、真司が元々は、AN通信にリ
クルートされる予定だったのを探り出し、AN通信にも調査の腕を伸ばします。調
査の結果、AN通信のエージェント養成施設が沖縄にある事がわかり、九条は沖縄
に飛びます。そこで九条は真司を見つけます。

折から更なるダムの爆破が起こり、中尊寺は、リー・ヨンソンから提案を受けま
す。リーは、中尊寺の当初の計画をばらされたくなければ、AN通信壊滅に力を貸
すよう中尊寺に求めます。他に選択肢の無い中尊寺はその提案を受けます。

カンボジアに居たイギリスの投資会社、ロイヤルロンドングロース社の幹部、ミ
ス・マッグローは、フリーのエージェント、デイビッド・キムに接近されます。
彼は、リー・ヨンソンを彼女に紹介します。リーは中央アジアでの水利権を掴も
うと画策しており、マッグローに投資協力を求めます。

鷹野はリーの調査のため、カンボジアを訪れていたところ、キルギス人のアジス
と知り合います。アジスは、キルギスで企まれている水利権の仕事を阻止しよう
としています。キルギスの水利権が外資に渡れば、現地人には法外な水道代が課
せられ、永遠に搾取されると言います。そのためAN通信に協力を依頼するので
す。

ところがアヤコが不思議な情報を掴みます。リー・ヨンソンの意外な過去が判明
し、アヤコはそれをマッグローに告げます。その結果起こる恐るべき事態と陰
謀。多彩な登場人物が絡み合い、リーの正体がついに明かされます。物語は手に
汗握るアクションシーンから、怒濤の結末へと導かれて行きます。

日本人が書いたサスペンス作品としてはなかなかの作品であると思いましたが、
如何せん短すぎます。戦いの対立軸がいまひとつはっきりせず、とりとめのない
印象に終始します。物語の危機感を煽るには、もっと広範な情報と物語の肉付
けが無ければならなかったと思いました。欧米のミステリに比べればだいぶ底の
浅い作品でありました。








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by rodolfo1 | 2018-06-29 02:49 | 小説 | Comments(0)

葉真中顕作「政治的に正しい警察小説」を読みました。


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いやいや。なんでもブラックユーモア小説集だと言う謳い文句だったのですが、
これはひどい出来でした。短編6編から成ります。

第一編、秘密の海。小説の始まりは小児虐待です。初めから虐待されていた訳で
はありません。海に連れて行ってもらった楽しい思い出を持っています。一転、
場面は既に子持ちで結婚もしている主人公に移ります。彼は病院に見舞いに来て
います。病名は末期胃癌でした。 次に夫婦の出会いの話になります。二人はネッ
トで知り合いました。お互いにネグレクトされて育った関係で、二人の仲は急速
に進展し、結婚します。悲しい結末かと思いきや、場面は一転し。。。この編は
まだ小説らしい出来栄えです。

第二編、神を殺した男。主人公は元棋士で、今は将棋関係の文章を書いて生計を
立てています。今度の仕事は、20年前に亡くなった無敵の棋士の話を書く事でし
た。実は彼はライバル関係にあった別の棋士に殺されたのです。彼らは実生活で
は結構仲良くしておりました。彼らの周辺を洗う内に判明した驚きの真相とは。

かなり話に無理があります。何故殺したか、と言う動機が語られますが、あまり
に荒唐無稽で到底共感出来ない話でした。

第三編、推定冤罪。漫画家の主人公は、同僚の漫画家の冤罪裁判で同僚の支援を
行い、無事無罪判決を勝ち取ります。折柄主人公は、元雇っていたアシスタント
からストーカーされていました。同僚の漫画家は、刑事の強引な自白強要に会い
、犯行は事実だと洗脳されています。何が事実か、を思い惑う同僚を前にして、
主人公自らもストーカーと思っていたアシスタントは実は。。。
あまりに論理が飛躍しすぎていて到底共感不可能でした。

第四編、リビング・ウィル。突然事故で植物状態になった主人公を巡って、家族
の間で尊厳死の可否が取り沙汰されます。結果植物状態のまま生かされる主人公
でありましたが、数年後、孫娘達の努力で、生前残していたリビング・ウィルが
発見され、呼吸器を取り外す事になりました。ところが主人公は実は。。。。
アイディアだけが先行した小説ですね。浅い思いつきを小説にしたからと言って
誰に評価されるものでもないと思います。

第五編、カレーの女神様。舞台は新規開店したカレーショップです。そこに訪れ
るのが主人公でした。主人公は幼い時に母親に出奔されますが、母親が最後に作
ってくれたカレーの味が忘れられません。たまたま訪れたこの店で彼はその思い
出の味に再開します。それを店主に語り、それに対して店主は。。。
トリックらしいものがめちゃくちゃです。謎というよりスラップスティックです
ね。到底受け入れられませんでした。

第六編、表題作。小説家ハマナコは、ポリティカル・コレクトネスをコンセプト
にした警察小説を書くようフリーの編集者に依頼されます。調子良く第一稿を書
き上げたハマナコでしたが、コテンパンに否定されます。差別と偏見の塊だと言
うのです。編集者の言うままに何度も改稿するのですが、一向OKは貰えず、次第
にハマナコ先生は偏向して行き、ついに書き上げた小説とは。。。

とても名のある小説家が書いたものとは信じられません。どこかの学生さんが思
いついて書いたような小説です。到底読むに値しない代物でした。こんなものを
評価する人がいる事が信じられませんでした。

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by rodolfo1 | 2018-06-11 02:19 | 小説 | Comments(0)

黒川博行作「迅雷」を読みました。

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黒川博行作「迅雷」を読みました。小説の冒頭は、主人公の稲垣と友永が、ケン
という男とともに緋野というヤクザの組長を誘拐するところから始まります。
三千万円が身代金です。ところが緋野もさるもの。頑として身代金の銀行振り込
みを拒否します。現金取引だけだ、というのです。

緋野の持ち物の中に、大阪情報大学理事会の委任状があったのですが、これにつ
いて緋野は単なる仕事の一部だ、と言い張ります。

友永は、もともとはネジの切り屑の商売をしていました。あまり儲からないもの
の、気ままに働けるところが良かったのでしたが、ある日、交通事故を起こして
骨折し、入院します。そこで出会ったのが、膝のリハビリをしていた稲垣でし
た。

稲垣はある日、友永をパチンコに誘います。不正な電波を発信して、パチンコ台
を操作するのに、友永の松葉杖が必要だと言うのです。ところが見事に不正はば
れ、二人はつまみ出されますが、稲垣は友永が気に入った、と言います。
稲垣は友永に、当たり屋をしていた過去を告白します。そして友永に、ヤクザを
誘拐して身代金をせしめる計画を打ち明けるのです。

三人はとあるヤクザの誘拐に成功し、野球賭博の勝ち客を装って、身代金の奪取
に成功します。金を分け合って、チームは解散したのですが、友永のもとに再び
稲垣の電話が入ります。再びヤクザを誘拐しようと言うのです。しぶる友永に、
稲垣とケン二人で犯行に及び、失敗して逮捕されたら友永も余罪追及の過程で警
察に引っ張られる、と言うのです。その次の標的というのが緋野でありました。

誘拐された緋野はただではすませません。さまざまな罠を仕掛けて三人を逆に捕
まえようと画策します。最初の身代金の受け渡しで三人はしくじり、ケンが拉致
されます。なんとか身代金とケンの身柄を手に入れたい稲垣と友永であります。
丁々発止のやりとりとアクションシーンの後、先に述べた情報大学のシノギも絡
み、ついに三人がつかんだものは。。。。

ケンと稲垣が仲間になる事情が小説の途中で明かされます。この小説は仲間、と
いうものの成り立ちを誘拐事件にからめて描いた良作であったと思いました。







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by rodolfo1 | 2018-03-06 02:15 | 小説 | Comments(0)

セリーヌ・ラファエル作「父の逸脱」を読みました。

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セリーヌ・ラファエル作「父の逸脱」を読みました。驚くべきことに、この作品
はノンフィクションです。主人公が書いた一種の自伝とも言える作品です。主人
公セリーヌは、ピアノの天才少女でした。二歳半で買い与えられたピアノを巧み
に弾きこなす様を見て、父親は彼女をピアニストに育てることを夢見ます。父親
がセリーヌを育てる方法とはとんでもないものでした。暴力でピアノレッスンを
強制したのです。

ピアニストとしての実力も進歩しますが、それ以上にエスカレートしたのは父親
の暴力です。ピアノのミスに対して殴る蹴るの暴力をセリーヌに振るいます。
日常に振るわれる暴力の最たるものは、下着を脱がせてお尻を革のベルトで打つ
というものでした。言葉での暴力も続きます。食事もまともに与えられません。

しかも母親は、その暴力をあらまし知りながら、それを阻止することには消極的
です。しばしば暴力を迎合します。セリーヌのピアノ教師も似たようなものでし
た。ある教師は、虐待を知り、レッスンを断りますが、セリーヌの天稟を目にし
たとある教師は、父親の虐待に迎合します。自分の生徒がコンクールに勝てば、
教師の手柄になるからです。

次第に精神を病んできたセリーヌは、父親に唯一反抗するべく拒食の道を歩みだ
します。しかし誰もそれを見ながらセリーヌを助けません。唯一、保健士のマリ
オン先生だけが彼女の異常を察し、彼女を救おうとします。マリオン先生は、校
医のマルタン医師をセリーヌに紹介し、虐待がセリーヌの身体にもたらした痕を
記録し始めます。将来の訴訟に備えるのがその目的でした。

セリーヌをショパンコンクールに出場させると決めた父の虐待が更に高まる中、
セリーヌはついに家を出ることを決意します。警察の未成年保護班に駆け込んだ
セリーヌは、フランスのお役所仕事にさまざまな過酷な仕打ちを受け、本来の希
望であった、伯母の家に引き取られる事を達成できず、いろいろな施設をたらい
回しにされます。そうした施設は、時に過酷な状況でありましたが、なんとか切
り抜けたセリーヌは、両親への呵責と戦いながら、虐待からの離脱を目指して戦
う事になります。さてその結末とは。。。。

小説は、実はわりと短いものです。三分の一は、翻訳者とか、児童精神科医とか
、臨床心理士の感想から成り立っています。1900円払って、この人達の勝手な
モノローグを読ませられる読者の身になってもらいたいなと思いました。あんた
ら関係ないやん。。。

まあしかし、日本でこのような小説が山ほど出版されているのに、このノンフィ
クションが今話題になるのは、フランスというモラルにおける先進国でこのよう
な事態が起こっている、という事実があまりにも重たいからでしょう。

私にはこの父親の事がよくわかります。長年のネット生活で見聞きした事からも
裏付けされるのですが、世の中には、かのマルキ・ド・サドの著作に啓発され
て、自らをサディスト、と見なし、何か社会的に確立された立場であるかのよう
に振る舞う人がいます。この人達の何割かは、ただの人でなしです。

彼らは、常に被害者を探しており、その被害者にマゾヒスト、という名前をつけ
、被害者の人格を束縛し、改変し、それをおとしめて社会的立場を奪い、堕落さ
せて喜ぶ、という全くの犯罪者です。その被害者たちは、何か自分らがご主人様
に正しく奉仕している、という誤解に基づいて自らを滅ぼしてしまうわけです。

あってはならないこのような事態を避けるために、本書は大変重要な参考文献な
のだと思いました。

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by rodolfo1 | 2018-01-27 02:41 | 小説 | Comments(0)

椰月美智子作「未来の息子」を読みました。

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表紙画像にあるとおり、小学生高学年から読める本、ということで
青少年向けの本です。6つの短編から成っています。

第1章、しいちゃんは、しいちゃんという主人公のおばあさんの話です。
主人公の小学生の悩み事に対して、しいちゃんはある話を始めるのですが、
実はその話は。。。。結局主人公の悩みはその話によって解決します。
椰月先生が時折描かれる祖父祖母世代が孫に絡む楽しい話です。

第2章、忘れない夏は、野球少年の話です。主人公は転校が決まり、それ
まで熱中していた野球チームから外れることになります。悩みながらも
結局は野球を続けることになるであろう少年の葛藤を描きます。

第3章、未来の息子はファンタジーです。主人公はこっくりさんに熱中する
のですが、こっくりさんが終わってからも小さいおじさんが見えるように
なります。そのおじさんは、わざわざ主人公のところにやってきた、と言う
のですがのですがやってきた理由を最後に主人公に伝えます。泣ける話でした。

第4章、未来の手紙は、いじめられていた主人公の小学生が、未来の自分に
励ましの手紙を書く話です。その手紙はちゃんと投函されて、時期時期に
主人公のところに配達されます。一番最後に届く手紙には驚きの内容が書
かれていたのですが、意外な欄外の書き込みにその頃33歳になっていた
主人公は感動するのです。

第5章、月島さんちのフミちゃんは、兄姉と暮らす小学生の話です。両親は
居ません。お兄さんもお姉さんも背の高い美男美女です。一生懸命二人は
フミちゃんを子育てするのですが、二人ともちょっと変わっています。
変わっていながらもフミちゃんを大事にして可愛がる二人の姿は感動的
でした。

第6章、イモリのしっぽは、生物部に所属する中学三年生の話です。主人公は、
両生爬虫類班に属していて、イモリの飼育をしています。サンタクロースに
よく似た店長のいるペットショップの常連で、新部長になる二年生の家守
君と、ほのぼのとした会話を続けます。青少年向けではありますが、充分大人
も楽しめる小説でありました。 


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by rodolfo1 | 2018-01-16 02:18 | 小説 | Comments(0)